07
Side 日向
ヒュンと予備動作もなく繰り出された蹴りは、綺麗に男の腹に決まり、男はビリヤード台に背を打ち付け倒れた。
「拓磨は何処だと聞いてるんだ」
それを眉一つ動かさずやってのけた男、大和は薄暗い照明の下、倒れた男の胸ぐらを掴みもう一度聞く。
「ごほっ、ごほっ…」
咳き込む目の前の男以外みな乗り込んできた大和達に気絶させるほど痛め付けられていた。
「上総、お前の言う通り彼は見込みあるな」
大和の的確な指示に鮮やかな手並み、店の入り口で見守っていた俺は隣に立つ上総に小声で漏らした。
「あぁ、そうだな」
視線の先では大和が拓磨の居場所を聞き出しているところだった。
「…後藤は…廃工場に」
「誰の指示だ」
「そ…それは…」
スゥッと大和の相貌が冷たさを帯びる。
「―――か?」
大和が男に何事か囁くと男は躊躇いながらも頷いた。
そして、もう用はないと大和が男から手を離し、踵を返す。
「拓磨は最近閉鎖された廃工場にいる。行くぞ」
周りに号令をかけた彼は俺達が付いてきていることに今気づいたのか眉を寄せ、俺の横を通り過ぎる。
「―っ、待てよ相沢!何であんな奴庇うんだ!?アイツはっ、…後藤は志郎さんを殺した人殺しじゃねぇか!」
後藤?志郎?人殺し?
俺は聞き慣れぬ名と物騒な単語に、俺の横で足を止めた相沢と呼ばれた彼を見た。
「行くぞ」
だが、彼は男の言葉を無視して店から出て行く。
「どう思う?」
俺は彼等の後を追いながら上総に視線を投げる。
「後藤は拓磨さんの事だろうな。それで志郎という人物を拓磨さんが殺した」
本当に拓磨くんは巻き込まれただけなのか?
俺はとにかくマンションで待機している唐澤に電話をいれた。
Side 猛
日向からの報告に唐澤は淡々と頷き、通話を終えると眉を寄せ難しい顔をして俺を見た。
「見つかったか?」
「はい。どうやら最近閉鎖れたミナミ工場に連れていかれた様です」
俺はそれに一つ頷き、ソファーから立ち上がる。
「拓磨を迎えに行く。唐澤、車を出せ」
「はい」
他の報告は車の中で聞く、と言い足を進めた。
誰のモノに手を出したか、知らしめる必要がある。
いくら知らなかったとはいえこの俺のモノに手を出したのだ。
ただで済ますわけにはいかねぇ。
それに俺は自分のモノにちょっかいをかけられるのが一番嫌いだ。
エントランスを抜け、横付けされた車に乗り込む。
ウインカーを出し、車がなめらかに走り出すと助手席に座った唐澤が報告を始めた。
「拓磨さんには相沢という暴走族の頭をしている友人がいるそうです。日向の見解ではその友人絡みで今回の事件に巻き込まれたのでは、と」
「拓磨がそんな面倒に巻き込まれるとは思えねぇな」
日向の見解を聞き、俺は一蹴した。
唐澤も同じなのか頷いて続ける。
「日向もそれについて自信はないようで、もしかしたら拓磨さん本人が当事者で拉致されたのではとも言っておりました」
足を組み替え、唐澤に続きを促す。
「それと、彼らの間では拓磨さんは後藤と呼ばれているそうです」
「後藤?」
アイツの名前は草壁だ。借金の関係で戸籍を確認した事もあるが変わった様子はなかった。
「はい。それと、…日向の聞いた話では拓磨さんが志郎という人間を殺したと」
段々とこちら側に近付く話しに俺はスッと瞳を細めた。
「随分穏やかじゃねぇな」
拓磨が人を?それはねぇ。
暗く沈んだ瞳を見たことはあるが拓磨はまだ誰も手にかけてはいないだろう。
「そちらに関しては至急調べるよう手配してあります」
しかし、報告が届く前に拓磨が捕らわれた廃工場で真実を聞くことになる。
拓磨の心の内を。圧し殺していた感情の全てを。
草壁 拓磨と後藤 拓磨。その名が持つ意味を。
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