06
ぞろぞろと倉庫から十代後半から二十代前半にかけての少年、青年が出て来た。
大和はメットを脱ぐと彼等を見回し、口を開く。
「これだけか」
「いえ、後から月牙-ゲツガ-と紅-クレナイ-が来ます」
そう青年が大和に言った途端、倉庫街に複数のバイクの音が近付いて来た。
車の中から様子を見ていた上総は成程、と頷いた。
「彼は暴走族の頭だったのか」
それも幾つものチームを纏めあげ頂点に君臨しているようだ。
「みたいだな。なら拓磨くんはアイツのとばっちりに巻き込まれて敵対勢力か何かに拉致された」
それならば目撃された若者達、というのも分かる。
「一先ず唐澤に連絡入れとくか」
敵の正体が見えれば怖いものなどない、と俺達は気を緩めてしまった。この時、この場で一番事の重大さを理解していたのは大和だけだった。
倉庫前で集まったチーム事に大和が次々と指示を出す。
「拓磨が何者かに連れ去られた。おそらく連れ去ったのは炎竜-エンリュウ-だ。Fly-フライ-とBee-ビー-は俺について来い。炎竜の拠点に向う。時と場合によっては潰す」
「それから念の為、月牙と紅は付近を捜索してくれ。別のチームに拉致された可能性も捨てきれねぇ」
「Roots-ルーツ-はバックアップ。情報は全てルーツに回せ」
以上、と大和が号令をかけそれぞれが動き出した。
鴉の中でも一、二を争う武闘派チームの炎竜。この街に奴が帰って来てから反旗を翻したうちの一チームだ。
拓磨には奴が帰って来ている事は教えていない。が、もし奴が関わっているとしたら…。
もしそうだとしたら拓磨は…、
大和はフルフェイスの下、拓磨を案じ、僅かな感情を乗せた氷の瞳を細めた。
早まるなよ拓磨―。
Side 拓磨
「…っ…ぅ…」
頬にヒヤリと冷たい感触を感じて意識が浮上する。
ぴちょん、ぴちょんと何か液体の落ちる音が聞こえる。
「っ…く…ぅ…」
身体は重く、節々がずきずきと絶えず痛みを発している。呼吸するたびに息が詰まるようだ。
堅く閉ざしていた瞼をふるりと震わせ、俺はゆっくりと瞼を押し上げた。
…暗い。
目を開けた筈なのに、そこには変わらず闇があった。
「ぅ…」
何度か瞬きをすれば、視界は少しずつ明度を取り戻す。けれどそこに色彩は存在しない。
「…はっ…っく…」
痛みを堪え、身体を動かせばまたぴちゃんと音がし俺の頬を冷たい滴が落ちていった。
…水?
その先を見上げれば、何処へ通じているのかダクトが何本も延びている。
その更に上には剥き出しの鉄骨が組まれ、穴の空いた塗炭の屋根が視界に写った。
どこ、だ…?
いつの間に運ばれたのか気を失う前にいた場所ではない。
背に伝わる堅い感触から転がされているのはコンクリートの上だ。
手足の拘束は特にされていないようだが不思議と逃げようという気持ちが沸かない。沸いた所で痛みで動けそうにもなかったが。
転がったままぼんやりしているとぱきり、ぱきり、と硝子を踏むような音が近付いて来た。
緩慢な動作で音のする方に視線を投げる。
誰だ?炎竜か…?
すっと足音がすぐ側で止まり視界が翳った。
「久し振りだな後藤」
炎竜の奴等ではない声が落とされる。
「―っ!?」
聞き覚えのあるその声に、俺は身体を震わせ目を見開いた。
「俺の事なんざ覚えてねぇか」
そして、影が肩を竦めてクツクツと笑う。髪を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられた。
そこには、見覚えのある顔。
「―っ!?ト…ワ…」
「何だ、覚えてるじゃねぇか」
そう言って目の前の男、元鴉幹部のトワは口端を吊り上げ、髪を掴んでいる手とは逆の手で俺の頬に触れた。
「…い…つ帰って…」
喉がからからで声が掠れる。
トワはそれには答えず、不敵に笑い言葉を紡ぐ。
「それより自分の心配をしたらどうだ?」
パッ、と掴まれていた髪を放されコンクリに顎をぶつけた。
「まだこんなもんじゃすまねぇぜ?」
「てめぇっ―!!」
見下すように笑うトワにジリジリと不快感と怒りが沸き上がる。
動けないと思っていた体は痛みを無視して立ち上がろうとした。
「いいな、その生意気そうな目。捩じ伏せたくなるぜ」
トワを睨み付けたまま、ふらふらと何とか立ち上がった俺の腕をトワはいとも容易く掴み、拘束した。
「…ぅっ!?は、なせっ!」
ぎりっと骨に罅の入っている右腕を乱暴に掴まれ、痛みに肩が跳ねる。
「ククッ、このままだと右腕使い物にならなくなるかもな」
「このっ―!」
俺は唯一自由な足を使い、無理矢理身体を捻って蹴りを繰り出した。
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