05


side 日向

車を走らせ、拓磨くんの通う大学の来客者用の駐車場に車を止めた。

「ところで日向。ソイツは今日大学に来ているのか?」

「……しまった。そうか、忘れてた」

大学は高校などと違い、自分で授業を組み立てるのだ。一限をとっていなければ会えないし、もっといえば今日授業をヒトコマも入れていなければ大学に来ない可能性だってあった。

ガチャリと鍵を掛けて、俺は上総を見た。

上総はそんな俺にため息を落とし、馬鹿かと冷たい視線を投げてくる。

「いや、でも…今はこれしかないんだ。ソイツが来ることを信じて待とうぜ。な?」

冷ややかな視線に口元を引き吊らせ、俺は上総に笑いかけた。

「…そうだな。ソイツが来なかったら他の人間に聞こう」

スッと俺から視線を外した上総はそう言って歩き出した。

コイツ唐澤と同じタイプでやりにくいんだよなぁ。

俺は心の中でぼやいて、上総を追って歩き出した。

待ち伏せ場所は先日拓磨くんと訪れた駐輪場だ。

そこしか彼と接触する場所はなかった。

駐輪場を前に俺と上総はひたすら彼が来るのを待つことに。

そして何故か周りの学生は俺と上総を見て行く。

「お前といるせいで余計目立つな」

「絶対俺だけのせいじゃない。俺とお前の組み合わせが珍しいんだろ」

片や黒や紺といった大人しめの出で立ちの上総。

片やチャラい遊び人風の格好の俺。

整った容姿も相まって二人は学生の目を引いていた。








待つこと数十分。俺の強運のおかげか、目的の人物は赤い車体に跨がり、黒のフルフェイスをしてやってきた。

「上総」

「彼か…」

目を赤い車体から離さず言えば、上総も分かったのだろうそちらに視線を向けた。

バイクを止め、メットを脱いだ人物、相沢 大和は視線を感じて駐輪場の入り口を見た。

射ぬくような鋭い視線を向けられ上総が横で呟く。

「感が鋭いな」

「同感」

そして、俺達が話しかけるまでもなく向こうからやってきてくれた。

「俺に何の用だ」

熱を感じられない冷たい声が、簡潔に答えろと促す。

どうやら彼には嘘や冗談は通じなそうだ。

上総と視線を交わし、俺は率直に聞いた。

「拓磨くんを知らないか?昨夜から帰ってないんだ。携帯も置いてっちまってさ」

俺の言葉に彼は僅かに眉を寄せただけで答えてはくれない。それどころか更に冷たさを増した声が鋭く言い放った。

「拓磨をつけていた奴に答える義理はねぇ」

取り付く島もない相手に上総が口を挟む。

「その彼が危険に曝されているかもしれなくても?」

大和の視線が上総に向けられる。

「どういうことだ」

「拓磨さんが最後に目撃された時、彼は若い男達と一緒にいたらしい。その彼らに拉致された可能性がある。何か知っている事があれば…」

上総が言い終わる前に大和の表情が変わった。

氷の瞳に熱が灯る。

上総の言葉に反応を見せた彼は校舎に向かうでもなく、踵を返して止めたばかりのバイクに跨がる。

「おいっ!」

思わず声を荒らげた俺を無視して彼は携帯電話を操作すると何処かへ電話をかけたようだった。

「彼は何か知っていそうだな」

こんな時でも冷静に告げる上総に俺は声を低くした。

「吐かせるか?」

「いや、動くのを待った方がいいかもしれない」

上総の視線の先では大和が何人かに電話をかけていた。

「そうだ、緊急事態だ。すぐ動ける奴全員に召集をかけろ。場所は…」

通話を終えた彼は俺達に視線すら向けず、フルフェイスのメットを被るとエンジンをかけた。

「日向、追うぞ」

俺は頷き、急いで車に戻った。

ここで見失うわけにはいかねぇ。

目立つ赤い車体のバイクを追って俺達も大学を後にした。

「にしても何者だ?」

前を走るバイクを見つめて口の中で呟く。

「さぁ。ただ言えることは拓磨さんの友人だけあってさすが度胸は座ってる。彼、結構見込みがあるかも」

上総も前を行く大和を見据え、言う。

「そうじゃねぇだろ」

バイクを追って辿り着いた先は、古い倉庫の立ち並ぶ倉庫街だった。

2Bと掠れたペイントのされている倉庫の前でバイクが止まり、クラクションが二度鳴らされる。

すると、2Bの倉庫の扉がガラガラと音を立てて左右に開かれた。

「「………!」」

何だ、コレは…?



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