07
一人になり、ソファーに寝転ぶ。
右腕は使わないようにと固定されていて動かない。
夕飯はどうするかな。どうせ猛は帰って来ねぇだろうし。
「作るの面倒だな…」
そう考えて近くにコンビニがあるのを思い出した。
「ついでに明日の朝の分も買ってくるか」
よいしょ、と身体を起こし財布を手にする。
徒歩で行って帰ってこれる距離だ。
たかがそれだけで帰らせた日向と上総を呼び戻すのも面倒臭く、なにより今は誰にも会いたくなかった。
「すぐ帰ってくるからいいか」
無駄になると思ったがそれでも一応、リビングのテーブルに書き置きを残した。
そして、俺は誰にも告げずにまだ痛みの残る身体を引きずってマンションを出た。
夜になると人通りも、車も極端に減る道を歩く。
空には星が瞬き、少し歩いただけでコンビニが目と鼻の先。
そんなゆったりと流れる時間を、ざらざらと耳に残る声音が切り裂いた。
「…見つけたぜぇ、後藤」
暗闇から姿を現したその男は、俺を真っ直ぐに見据え後藤と呼んだ。
「後藤 拓磨。俺等と一緒に来て貰うぜぇ」
俺等と男が言った瞬間、暗闇からばらばらと男達が出てきて俺を囲んだ。
外灯で照らされたその顔、何処かで見たことのあるような気がした―。
side 猛
日付を越え、深夜と呼ばれる時刻。俺はマンションへと帰ってきた。
「後の処理は唐澤、お前に任せる」
「分かりました。それでは会長、お休みなさいませ」
バタンとドアが閉まり、車が発進する。
それを背に、俺は明かりの灯るエントランスへと足を進めた。
エレベーターに乗り、部屋の扉のロックを外すと中へ入った。
リビングは真っ暗でシンと静まり返っていて、人の気配がしない。
「寝てんのか…?」
深夜回って帰宅した時は大抵先にベッドに入っているが。
嫌に静かだ。
足音を立てずに寝室まで行くとカチャリ、とゆっくり扉を開けた。
しかし、そこに拓磨の姿はない。
「何処へ行った?」
家の中を探してみたが拓磨の姿はどこにもあらず、人の気配すらしなかった。
真っ先に逃げたか、と思い浮かんだがそれはすぐ有り得ないと打ち消した。
アイツは逃げられないと分かっていて逃げるような奴じゃない。それに今は怪我もしている。
それならば何処へ―?
一旦考えを纏めようと、リビングの電気をつけソファーに腰を下ろす。
「何だ?」
そこでリビングのテーブルに置いてある紙に気付いた。
紙には一言、コンビニに飯買いに行ってくるとだけ。
「飯だぁ?もう真夜中だってのに…」
そう口にしてハッと気付いた。
部屋に入った時、すでに人の気配も、人がいたという温かさも失われていた。つい数分前に出ていったのならそういった名残が少しは残っているはずだ。
なのにそれが全く感じられないということは…。
アイツは何時これを書いて出掛けて行ったんだ?
俺は紙に視線を落としたまま内ポケットにしまってある携帯電話に手をかけた。
負った傷を癒す猶予も与えられず、降りかかる災厄は、二人にとっての分岐点となる―。
唯一×代替品 end.
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