07
Side 猛
ぐったりと意識を飛ばした拓磨に舌打ちをする。
「チッ、落ちたか…」
ズルリと拓磨の中から自身を引き抜くと、ドロリと放ったモノが拓磨の中から溢れた。
まぁ、昨日の今日でしかたねぇか。初心者だって言ってたしな。
拓磨の上から退き、汚れてしまったものの処理をする。
そして、見た目より軽い拓磨をバスルームへ連れて行った。
シャワーを出し、汚れた拓磨の腹をお湯で綺麗に洗い流す。
「はっ、俺が誰かにこんな事までするとはな」
昨日も気絶してしまった拓磨を綺麗にし、ベッドまで運んだのだ。
普通だったらそのまま放置するか、叩き起こして自分でやらせているが。
クッと唇を歪め拓磨の頬に触れた。
それだけ俺はお前を気に入ってるんだぜ?
目を閉じ、眠っていると拓磨はまるで人形の様だった。
しかし、ジッと動かない表情を見つめていた猛は不意に表情を歪め悪態を吐いた。
「チッ、胸クソ悪ぃ」
拓磨の何も写さない、それこそ人形の硝子玉のような目を填めこんだ、光を無くした目を思いだしたのだ。
アレは生きることを放棄した人間の目だ。お前は自分の命すら諦められるというのか。
「逃げる事は許さねぇ」
さっさと身体を綺麗にし、適当な服を着せると拓磨をベッドに運ぶ。
何処へも逃がさぬよう腕の中に抱き込み、明かりを消すと瞼を下ろした。
息苦しくなって不意にパチッと目を開ければ辺りは真っ暗で。
ぼんやりと意識を漂わせていた俺はグィと強い力で身体を引き寄せられて目を覚ました。
「……んぅ?」
完全に目の覚めた俺は自分を包み込む温い体温に気付き、ギクリと身体を強張らせた。
昨夜は気付かなかったが…。
気付いてしまえばドクドクと煩く騒ぐ心臓に、呼吸が早くなる。
「…っ、はぁ…」
落ち着けと深呼吸を繰り返し、俺を抱き締めて眠る猛をそっと見上げた。
規則正しい寝息に閉ざされた瞳。どうやら俺が起きたことに気付いてないようだ。
俺は四苦八苦しながら何とか猛の腕から抜け出し、ほっと息を吐いた。
それから、音を立てないよう静かに寝室のドアを開け俺は寝室を後にした。
「何処行くつもりだ…?」
だから猛が目を覚まして、低く呟いたのを俺は知らない。
寝室を出た俺は自室に立ち寄りバスルームへ直行する。
ガラリとドアを開け、服を脱ぎ捨てると猛に付けられた所有印が目に入った。
「悪趣味な奴…」
こんなもの付けて何が楽しいんだか、と唇を歪めシャワーのコックを捻った。
ザーザーと身体の上に冷水が降り注ぐ。
カタカタと冷たさで身体が震えるが今はどうでも良かった。
熱を失っていく身体に安心する。
「はぁ……」
猛から与えられる熱が、温もりが酷く怖かった。
自分以外の熱。他人の温もり。それは今の俺にとって恐怖でしかなかった。
「大丈夫だ。俺は誰も信じない。誰も…」
俺の中の何かが変わってしまいそうで、…冷えた身体を抱き締め目を瞑り、暗示をかけるように呟いた。
そして、水音に何もかもがかき消され、バスルームの直ぐ側に現れた人の気配に俺が気付くことはなかった。
忍び寄る変化に瞼を閉ざし、俺は変わらない日常を望んだ―。
日常×非日常 end.
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