04


車から降り、猛と一緒に歩いていれば周囲の人間達の視線が突き刺さる。

正直うざったい。

猛と唐澤、上総は何とも思っていないのか視線すら向けず足を進める。

そして入った一件のお店。

俺は猛に背を押され、店のオーナーらしき人物の前に立たされた。

「これはこれは氷堂様。いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう?」

「コイツに合うのを二、三頼む」

「はい、畏まりました。少しお時間がかかりますが…」

「構わねぇ。上総を置いて行く」

何が何だか分からない内に話はつき、俺と上総を残して二人は店を出て行った。

「ではさっそく別室で寸法を測らせて頂きますので」

メジャーで肩幅や胴回り、色々と採寸されて漸く分かった。

オーダーメイドでスーツを二、三着仕立てるらしい。

「スーツなんかいらねぇだろ。ったく、何考えてんだか」

別室から出て、外で待機していた上総の元へ向かう。

「終わったのかい?」

「まぁ」

それにしてもこの上総って奴、苦手だ。日向の方が扱いやすそうでまだましだったかも。

「それじゃ会長達も待ってるだろうし次行こうか」

「……」

その場所へは徒歩で行けるらしく、俺は無言で上総の後について行った。








砂利の敷かれた門をくぐれば左右に灯籠があった。

看板は出ていないが上総の話によると歴史ある老舗料亭らしい。

引き戸を開け、中へ入れば女将が出迎えた。

「氷堂の者ですが…」

上総がそう告げれば女将は心得たようにこちらです、と案内をし始める。

猛のいる部屋の前、障子越しに女将が声をかけ、膝を折ったままスッと障子を開ける。

中には銚子を傾ける唐澤と、猪口を手にした猛がいた。

「失礼します」

チラリと視線を向けた猛に、上総は俺の背を押して入室した。

どうぞごゆっくり、と背後で女将の声がして障子が閉まった。

「座れ拓磨」

そう言われて抵抗を感じつつも俺は黙って猛の正面に腰を下ろした。

「会長、それでは私はこれで」

「あぁ、ご苦労。上総、お前も今日はもういい」

ぺこり、と頭を下げて唐澤と上総が退出して行く。

室内に猛と二人きりになり俺は口を開いた。

「どういうつもりだ?」

「何が?」

「スーツの事、俺をここへ連れてきた理由は何だ」

ジッと俺は猛の真意を探ろうと睨み付けた。

その視線を受けて尚、猛は表情一つ変えず猪口を傾け、喉を湿らせるとクッと笑った。

「お前は人を信用しないばかりか疑り深いな」

「それがどうした?」

世の中は多くの嘘で溢れている。俺はソレを知っている。疑ってかかる事それはいわば自衛手段だ。

「いや、そういう奴ほど堕ちた時には愉しいがな」

「悪趣味…」

目の前で笑うこの男ほど信用ならないものはない。

はっ、と息を吐いて猪口をテーブルの上に置いた猛は言う。

「俺の側にいりゃスーツを着る機会なんざいくらでもある」

それは俺を何処かに連れ出すって意味か?お前のいる世界に足を踏み入れろと。

俺は黙って眉を寄せた。

「それから此処に連れてきた意味は特にない。お前が何かして欲しいなら別だがな」

ニィと性質の悪い笑みを浮かべた猛が挑発するような眼差しを向けてくる。

「………」

俺はそれを無視して用意されていた箸に手を伸ばした。

「食べてもいいんだろ?」

猛は俺のとった態度にさして気にした様子も見せず頷く。

「好きなだけ食え」

「どうも」

口を閉じた事でシンと静かになった室内は時折カチャリと箸と陶器のぶつかる音だけになる。

老舗料亭っていうだけあって美味いな。

俺は正面から向けられる視線をシャットアウトして料理に舌鼓を打った。

「拓磨、お前酒は飲めるか?」

暫くして、声をかけられて仕方なく俺は料理から猛に視線を移す。

「飲めなくはない」

未成年だとかコイツは気にしなさそうだ。

それを聞いた猛に問答無用で猪口を渡され、酒を注がれる。

「俺は飲むなんて一言も言ってねぇ」

「飲めるんだろ?」

人の話を聞かない奴に言っても無駄かと早々に諦め、注がれた酒に口を付けた。



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