03
護衛の話が一段落したところで俺はもう一つの問題を口にした。
「俺、料理は自分でするから」
これについて猛は即反対はせず、逆に面白そうに笑った。
「お前がしたいってんならやらせてやるが、当然俺の分も作るんだぜ」
「会長、それはまだ危険では?」
あまり、というか猛を良く思っていない俺が食事に細工でもすると思っているのか唐澤が口を挟む。
誰がそんなバレバレの面倒臭い事をするか。
「…作らせてくれんなら作ってやるよ」
「いいだろう。なら、上総は護衛に回す。上総と日向は交代で拓磨の護衛につけ」
「「はい」」
これでいいな、と視線を向けてきた猛に渋々頷いて次に一番聞きたかった事を口にした。
「ところで俺の荷物とかは?」
「唐澤」
「はい。もう少ししたら業者の者が運んで来る手筈になっております」
そう言ったのと同時に室内に設置されている電話が音を立てた。
猛は動く素振りすらみせず、当たり前の様に唐澤が動いて受話器を取る。
そして、唐澤は二、三言会話を交わすと受話器を置いた。
「ちょうど業者の方が到着されたようです」
その後、俺は部屋を一室もらいそこに業者が荷物を運び込んでいった。
俺は自室となった部屋をぐるりと眺めてため息を落とした。
広すぎて落ち着かねぇし、嫌な事実に気付いた。
この部屋に寝る道具、つまりベッドはない。
思い出されるのはあの部屋の無駄に大きなベッド。
俺が自室の入り口で眉を寄せていれば背後から声をかけられた。
「拓磨さん。何か足りない物とかありましたか?」
初対面の時から丁寧な言葉遣いで話しかけてくる唐澤だが、俺からしてみれば警戒対象。
猛の次にヤバイと俺の直感が告げている。
俺は自室の扉を閉めて唐澤を振り返った。
「俺のバイクは?鍵がどこにも見当たらねぇんだけど」
「あぁ、青いバイクですね。マンションの地下駐車場に運んで置きました。それと鍵は会長が持っておられます」
「猛が?」
何でアイツが。俺は一言も聞いてねぇぞ。
俺はリビングへ向かい、ソファーで寛いでいる猛の横へ立つ。
「猛、バイクの鍵返せよ」
「何でだ?必要ねぇだろ。どっか出掛ける時はそこの二人が連れてってくれんだ。鍵は俺が預かる」
「おっ、拓磨くんバイク乗るんだ?」
そこの二人のうち、日向が反応する。
「…まだ俺が逃げると思ってんのか?」
日向を無視し、俺は思い至った考えに猛を冷ややかな眼差しで見下ろした。
「さぁな」
それに対し猛は何が面白いのか口端を吊り上げて笑っただけだった。
俺が仏頂面で猛の側を離れようと一歩踏み出したところで、ソファーから立ち上がった猛に腰を掴まれた。
「―っ!?」
腰に腕を回され、後ろに引き寄せられる。
「そんな事より確認が終わったんなら出掛けるぞ」
耳元へ落とされた低音に肌がゾワリと粟立つ。
「何処、にだよ?」
けれど俺は突き放しそうになった手を握り、なんとか平静に問い返した。
「ついてくりゃ分かる」
そう言って唐澤の運転する車に乗せられた。
助手席に上総が座り、後ろに俺と猛。日向はマンションを出て別れた。
「………」
車内は当然ながら沈黙につつまれる。
沈黙は別に嫌いじゃない。
隣に座るコイツさえいなければ、の話だが。
ジロリと横を見ればこっちを見ていた猛と視線が合う。
「何だよ?」
「いや。やけに大人しいじゃねぇか」
「騒いだところでどうにもならないって分かってるからな」
世の中には足掻いたってどうにもならないことが沢山ある。
「お前は…」
「何だよ?」
猛は言いかけて口を閉じた。
それを不審そうな目で俺は見る。
「会長、着きましたが」
だが続きを聞く前に唐澤がそう言って車を止めた。
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