21


「猛…」

そうして視線を絡めた先で猛がふっと熱い吐息をこぼして、拓磨の柔らかい心の奥に触れるように言葉を落とした。

「めいっぱい愛してやる」

「ぁ…ッ!…は…っ、ァ……!」

その言葉が鼓膜を震わすと同時に、ぐっと押し進められた灼熱の塊が狭い通路を押し開くように中へと侵入してくる。

「あ…、っ…はっ、ぁ…」

その熱さと秘孔を埋め尽くすような苦しさに、自然と拓磨の眉間にしわがよったが、突然そこで拓磨の熱を戒めていた猛の手が外される。出口を求めて体内で渦巻いていた熱が出口を見つけてぞくぞくと拓磨の中を駆け上がっていく。とろりとその先端から零れ出した蜜を掬いとる様に動いた猛の指先が、そっと裏筋を撫で、熱の放出を導くように拓磨のものを上下に抜いた。

「は…っ、ぁあ…」

ぬちゅぬちゅと濡れた音が鼓膜を犯し、無意識に腰が揺れる。そこに意識を持っていかれて、待ち望んでいた解放の瞬間に、拓磨の口からは堪えきれずに甘い声が上がった。

「…い、く…っ、ぁ…あ…、うそ…ッ」

しかし、

「はっ、…いいぞ。拓磨。お前の中はひどく熱いな」

いく瞬間に再び塞き止められた熱に、拓磨は呆然として猛を見上げる。びくびくっと大きく跳ねた腰を抑え、にやりと獰猛に笑った猛は拓磨がいきそうになった瞬間に緩んだ秘孔に一息に自身の怒張を押し込んでいた。ぐちゅりと湿った音を立て、猛を飲み込んだそこは拓磨の身体の中に押し込められた熱を思わせるように酷く熱かった。

「や…、っ、あ…ぁ…」

拓磨には経験のない甘過ぎる熱の坩堝に落とされ、拓磨はただその衝撃にはくはくと呼吸を繰り返し、目の前の相手に手を伸ばすしかない。
震える左手で猛の腕を掴んだまま、リハビリ中の右手で猛の肩を掴む。
途切れ途切れの呼吸を繰り返し、猛を呼ぶ。
拓磨には何が何だか、分からなくなっていた。

「たける…っ」

「安心しろ。すぐにいかせてやる」

ぐっと腰を引かれて、中をみっちりと占めていた熱いものがずるりと抜かれるのを感じる。そして、それは直ぐにまた内壁を擦るように、閉じられた奥を突くように入ってきて、出たり入ったりを繰り返した。その際、ごりごりと凝りのような場所を何度も刺激されて内壁が猛の形を覚えるようにぐねぐねとうねり、拓磨にその熱をまざまざと伝えてきた。

「ぁ…あ…っ、や…だっ…こわい」

出せない熱がずっと体内で渦巻き、新たに加えられる甘い刺激にはらはらと涙が零れ落ちる。
無垢な子供の様に猛に手を伸ばす拓磨とは裏腹に赤く染まった目元は艶やかで、猛を呼ぶ声には堪えきれない甘さが混じっている。
猛は拓磨のまなじりから零れ落ちた雫に唇を寄せると、その熱に身を委ねるよう囁く。

「怖い事なんか何もねぇさ。知ってるだろう、拓磨」

溺れても良い。ぐずぐずになったその理性を手放して、俺だけを感じていれば何も怖いことはない。
ゆらりと揺れた濡れた眼差しが猛を認識して、小さく頷き返す。

「いいこだ」

囁く吐息も熱くて、下肢を揺さぶる感覚も短くなっていく。

「はっ、はっ、は…ぁ、あ…、あっ…」

接合部からはぐちゅぐちゅと濡れた水音が響き、肌にぶつかる乾いた音も間もなく限界を迎えようとしていた。

「っ、…いくぞ、拓磨」

「ぅン、はぁ…、はぁ、…はぁ…ッ」

熱くて、苦しくて、でも気持ちよくて、早く何とかして欲しいと熱い呼吸を繰り返し、ぼうっと熱に浮かされた思考で猛の言葉を聞く。
大きく腰を引いた怒張にごりごりと内壁を擦られ、ずぶりと限界まで突き入れられる。

「いっ…、あっ、ぁ――っ」

「はっ……ッ」

同時にぬちゅぬちゅと握られ、ひっきりなしに蜜を零していたものを刺激されて、腰に重く溜まっていた熱がガチガチに張り詰めていた細い道を駆け昇って弾け飛ぶ。ぷしゅっと飛沫を上げた先端から解放を喜ぶように次々と蜜が溢れ出し、互いの腹を汚していく。
ぎゅっと絞まった秘孔に猛も眉をしかめ、数瞬遅れて熱い飛沫を拓磨の中に解き放った。

「ぁあ……ッ、ぁ…、つい…」

出てる。俺の中に熱いのが。

ふわふわと甘く身体の中を支配した高揚感に、心を満たす熱い熱。拓磨は長く続く放出に腰が震えるのを止められなかった。

「ふ…っ、拓磨」

とろりと熱に浮かされた様子の拓磨と視線を絡めて、猛はその唇を自分の唇で塞ぐ。

「はぁ…、ふっ、ぁ…、ンぅ…」

「我慢した分、気持ちがいいだろう?」

唇を触れ合わせたまま、猛は冷めやらぬ熱を宿したまま獰猛な牙を突きつけて囁く。そうして、再び拓磨の腰を掴んだ猛は一度熱を注いだだけでは足りないとばかりに、ゆるゆると腰を動かし始めた。

「やっ、ぁ、まて…っ!たけるっ」

まだいってるような感覚が抜けない。中もどろどろと熱くておかしくなりそうだと、拓磨は猛に待ってくれるよう求めたが…。

「おかしくなってみろ。俺も随分待った方だぜ」

「ぁ…ん、っ、それは…」

「お前も少しは同じだろう?」

行為で火照った頬とは別にじわりと拓磨の目元に朱が差す。
拓磨は深い交わりを求めたわけではないが、猛のぬくもりを求めた時点で、本能ではそういう行為も含めて心の奥底では愛されたがっていた。

「なにも恥ずかしいことじゃねぇ。好きなら普通だ」

「あ…っ、…猛」

「お前が疲れて眠ったら、朝まで抱き締めて眠ってやる」

そうして、マンションにいた時と同じ様にまた一緒に朝を迎える。だから、

「もう少し付き合え、拓磨」

「は…っ、ぁ…、ん、無理だって言っても、聞いてくれねぇんだろ?」

話している間にも妖しく触れてくる手に拓磨は熱い吐息を吐き出す。少しばかり取り戻した理智の光を宿し、猛を見上げる。

「あぁ…、お前が泣いてどうしても嫌だって言うなら考えなくもねぇな」

どうすると、面白そうに弧を描いた唇があり得ないと自信を覗かせて言う。

「アンタの場合っ、俺が泣くより先に…ぁ、ッ、別の意味で啼かして有耶無耶にする気だろ…ッ」

「よく分かってるじゃねぇか」

俺のことを。

拓磨が泣く前に、その思考を甘く溶かして啼かしてしまえば、たとえその最中に拓磨が嫌だと言っても別の意味で解釈して流してしまえばいい。

「っ、…ぁ、ン…。俺は、無駄な事は…しない」

「いい返事だ。…お前の中もまだ熱くうねって、俺を離そうとしねぇ」

ぐちゅぐちゅと腰を揺すられる度に中に出されたものが音を立てて、奥をこつりこつりと叩かれる。

「あ…ぅ、んっ…それ…やめ…ッ」

「気持ち良すぎていいか?触ってもないのにお前のここ、また立ってきたな」

「っ、いちいち…、言うな、ぁ…っ…」

「あぁ、絞まったな。恥ずかしいのも感じるか」

良いことを知ったと、完全に雄の捕食者の眼差しで拓磨を見下ろした猛はゆるりと唇に弧を描くと、目の前で与えられる甘い刺激に身体を震わせて啼く拓磨の唇を再び己の唇で塞いだ。

その夜、拓磨はもういっぱいだと感じるほど猛の熱に翻弄された。







「猛の馬鹿野郎。嘘つき」

拓磨はあの後さんざん焦らされて、それが優しさだとでも言うのか?何度もいかされるよりは少ない回数であったが、その一回一回がもどかしくて、拓磨は何度も猛に催促してしまった。今、思い返しても恥ずかしい事しかない。

「あんなの俺じゃない」

本当にへとへとになるぐらい疲れた。だが、それと同じぐらい気持ちが良くて、嫌でも猛の熱が感じられた。俺は猛に抱かれている。愛されている。

「…嫌だったわけじゃないんだ」

自分で言い出した分、文句も付けられなかったが、それだけ猛に我慢を強いていたと思い知って拓磨は初めて悩まし気な溜め息を吐いた。

「でも、猛が俺じゃない誰かを抱くのは嫌だ」

実感と共に新たに抱えた感情を胸に抱き呟く。

そう、嫌なのだ。
俺は今、子供の様に猛を独り占めしたいと思っている。
それが想いを伴わない機械的な、人としての欲を発散させる為の行為であったとしても猛には誰かを抱いてほしくない。

「…嫌だ。そんなの」

拓磨は独り言をこぼして、ベッドサイドに置かれたコップを手に取る。微かに掠れの残る喉を潤す様にコップに口を付けて喉を湿らせていれば、開けっ放しになっていた寝室の扉から猛が姿を現す。

「拓磨。動けるか?朝飯をリビングに持ってこさせた」

拓磨の希望通り、共に朝を迎えた猛はベッドの上から動けなくなっていた拓磨の為に朝食を離れに持ってこさせていた。離れに備え付けられている内線電話一本で用事は済む。
寝室へと顔を出した猛は起きた時から変わらぬ様子の拓磨に近付くと、機嫌良さげにその双眸を緩め、凪いだ声音で拓磨に言う。

「動けねぇなら運んでやるぜ」

「………」

コップをサイドテーブルに戻した拓磨は無言で両手を猛に向かって差し出す。そして、その行動に微かに驚きを見せたのは聞いた猛の方だった。

「今日は嫌がらねぇのか」

「どうせ面白がってるんだろ。それにまだ動けそうにねぇし。……あきらめた」

ベッドの傍らに立っていた猛が拓磨を運ぶ為に身を屈めたのに対して、拓磨は躊躇わずに猛の首に腕を回して、その身を委ねる。
耳元でくつりと低く笑った声音が、拓磨の心を覗き込むようにひっそりと囁いた。

「それなら、もう一つ諦めろ。俺が抱くのはお前だけだ。前にも言ったろう」

「なっ…!聞いて…」

「随分と大きな独り言だったな」

にやりと笑った唇が拓磨の額に落ちる。
腕の中で羞恥で顔を赤く染め上げた拓磨に猛は昨夜の情交を匂わせる様に熱い眼差しで告げた。

「あまり長い時間俺を待たせると昨夜みたいになるぜ。そういう我儘はいつでも大歓迎だがな」

むしろ、面と向かって言ってこいと猛はまた拓磨の唇を奪った。





全てを許され、受け入れられる。次々と与えられるものに翻弄されながらもそれは酷く温かく心を満たしていく。もっと、もっとと欲張りになった心が抑えきれなくなって零れ落ちる。

そうやって少しずつ拓磨は甘えることを覚えさせられ、愛されながら、愛しかたを知っていく。深い情を交わした恋人の腕の中に包まれながら…。



素顔×独占欲 end.



[ 90 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -