02
サイズの合わない服を着て、リビングへ戻れば猛がソファーに座っていた。
「…水、貰っても良いか?」
「あぁ。…それと拓磨、この家を出なけりゃ好きにしてていいぜ」
それはこの家を出るなってことか。
俺は素直に頷き返してキッチンへ水を貰いに足を動かした。
コップに半分ぐらい水を注いで、一気に飲み干す。
そして、リビングで小難しい書類を眺めている猛をジッと見つめた。
アイツには俺を買って何か得があるのか?
…ないだろうな。たかが大学生一人買った所で何の力もありゃしない。
じゃぁ、何故?
ジッと見すぎていたのか猛が不意に俺の方を向いた。
「そんな熱い目で見んな。それとも構って欲しいのか?」
「…誰がっ!」
瞬間カッとなったが、からかわれているんだとすぐに気づき怒鳴るのを止めた。
俺は無駄な事はしない主義だからな。
その判断の良さに猛がへぇ、と小さく感嘆したのも知らず俺は二杯目の水をコップに注いだ。
「そろそろ寝るか」
目を通し終わったのか、いくつかの書類をテーブルに乗せ、猛は俺の顔を見た。
「…何だよ?」
猛は俺の疑問には答えず、ソファーから立ち上がるとついて来い、と言って歩き出した。
目の前の扉をカチャリ、と開き猛が先に入る。
「ここが寝室だ」
その部屋は本当に寝るためだけの部屋なのか、キングサイズのベッドがドンと置かれており、その枕元付近にサイドテーブルが設置されているだけだった。
そして、この部屋に一つある大きめの窓には淡い色のカーテンが引かれていた。
「シンプルというか殺風景な部屋…」
「それでいんだよ。ここは寝るための部屋だからな」
そう言って振り返った猛にグイッ、と腕を取られ驚く間もなくベッドの上に放られた。
「…っ」
衝撃はなかったが俺は反射的に目を瞑っていた。
そして、気付けば猛に押し倒される格好になっていた。
「なにす…」
「何するんだ、とか聞くなよ」
両手をシーツに押さえつけられ、見下ろしてくる端整な顔を睨み付けた。
「俺は二度も同じ事は言わねぇ」
お前は俺が買った―。
言葉にしなくても猛の瞳がそう語っているのに気付き、俺は抵抗するのを止めた。
所詮こいつも他の奴等と一緒だ…。
誰一人、俺を見てくれる奴なんかいない。
信じていいのは自分だけ。
「フッ、賢い奴は好きだぜ。…だがな」
痛いくらい強く顎を掴まれ、間近で視線同士が絡まる。
「その瞳が気に入らねぇ。今すぐ止めろ」
猛の相貌がナイフの様に鋭く細められた。
その眼って何の事だよ?
そう疑問に思う心とは裏腹に、眼光鋭く突き刺すような視線を受けて、体が無意識にビクリと震え強張った。
「気付いてねぇのか」
「な…に、がだ?」
眉を寄せ呟いた猛に返した俺の声は情けなくも掠れたものになった。
睨まれただけで、体が恐怖で竦み上がった。
「チッ、厄介な…。まぁ、いい。直ぐにそんな瞳ぇ出来ねぇようにしてやる」
「なにい…っ、んぅ!?」
間近に迫った顔との距離がゼロになった。
薄く開いた唇から、自分とは異なる熱を持った舌がスルリと入り込んできて、逃げようとした俺の舌を絡めとる。
「んんっ!…んっ、…ふっ…」
口内を余すところなく蹂躙され、時おり舌を甘噛みされて体が震える。
「ふぁ…っ、…ん…やめ…」
ぴちゃぴちゃと唾液が混ざる音が聴覚を刺激し、羞恥で顔に熱が集まる。
抵抗しようにも両手は抑え付けられ、顎はしっかり固定されていた。
「っは…ぁ…はぁ、はぁ…」
「はっ、…いいぜその顔。想像以上だ」
猛はニイッと満足げに笑い、俺の顎を伝って落ちる唾液を舐めとった。
「……くっ」
抵抗を許されない身だと理解しながらも俺は不快感も露に顔をしかめ、猛を睨み付けた。
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