路地裏小話36(Signal×彩王)


ひょんなことから知り合いになり、今まさに友達へとその関係を深めている二人。

「へぇ…、じゃぁ、廉は毎日牛乳飲んでるんだ?」

「うん。でも、なかなか効果が出なくて。久弥は何かやってる?」

「んー…、俺はそんなに気にしたことねぇけど。確かに改めて考えると俺の周りの奴らも背高いやつ多いな」

特に見下ろされてると思うとムカつく奴らが数名、頭の中を過る。

久弥は右手に持ったスプーンでカレーライスをすくいつつ、そう話を続ける。
それに対して向かいの席に着いてこちらも同じくカレーライスを口に運んで、僅かに首を傾げたのち再度、廉は口を開く。

「俺は見下ろすとかじゃなくて、せめて同じくらいの身長は欲しいんだよ」

「まぁな、言いたい事は分かるぜ」

同じ高さの目線で、同じものを見てみたい。と、いうのもあるが…。
今より相手との差が縮まれば、その分相手に近付けるような気がする。

「………」

互いに誰かを思い浮かべて、しばし沈黙が落ちる。そして、それを見計らってではないだろうが、そんな二人に声をかける人物が一人。

「廉?」

「っ、あ…、工藤?な、何でここに?」

二人の座るテーブル席の横で足を止めたのは廉が今まさに頭の中で思い浮かべていた工藤であった。思わず動揺を露にした廉を不思議に思いつつもその事には触らず工藤の視線は廉と久弥の二人の間を行き来する。

「何でって、昼飯食いに寄ったら廉の姿が見えたから」

「あ、そうだよな。ここのカレー屋が美味いって教えてくれたの工藤だもんな」

廉は久弥へと流れた工藤の視線に気付いて、そのまま話題を変えるように久弥に向けて工藤の紹介をする。

「って、ことで俺にこのカレー屋のこと教えてくれた工藤」

「ども。廉の先輩…?」

見るからにタメではないなと判断した久弥は、つい癖で学園で被っている猫を被る。

「え、先輩…」

久弥のその切り返しに工藤は先輩ではないと返そうとして廉は言葉に詰まった。先輩ではないなら何なのだと、その後聞かれても廉には何と答えたら良いのか分からなかったからだ。
工藤と廉の関係を表す単語はまだ曖昧で。

「ん?どうした廉?」

返事をしない廉に久弥の視線が流れるが、その方向を変えるように工藤が口を開く。

「そうだな。学校は違っても先輩に違いない。で、そっちは廉の友達か?」

「そっ。つい最近廉と友達になった糸井 久弥。よろしく、廉の先輩」

廉の困惑をよそに工藤と久弥は挨拶を交わす。おまけに工藤はカレー屋の入口横にある窓を軽く指指すと、続けて久弥に言った。

「ところで、あそこにいる奴はお前の知り合いか?」

さっきから視線を感じると工藤は店の外からちらちらとこちらを窺うようにしている人物がいることを口にした。すると久弥はがたりと音を立てて椅子から立ち上がる。

「あっ!カズ!」

「やっぱりお前の知り合いか」

「ちょっと行ってくる!廉と廉の先輩は飯食ってて!」

「ちょっ、久弥!」

「俺もここで飯食ってていいのか?」

廉が止める間もなく、席を立った久弥は店の入口に駆けて行ってしまう。
その場に残された工藤はとりあえず廉の隣の椅子を引き、そこに腰を下ろした。

「また変わったダチが出来たな。どこで知り合ったんだ、廉?」

「えっと…」

廉の戸惑いを他所にいつもと変わりなく接してくる工藤に廉は安堵しつつ、久弥との出会いを思い返して説明する。その内に久弥がカズと呼んだ人物を連れて戻ってくる。

「ったく、一緒に遊びたいなら寮から出てくる時に声かけろよな」

「遊びたいというか、ヒサが楽しそうな顔して出掛けてったからつい気になってなぁ」

それに俺が声をかける前にさっさと行ってしまったのはヒサの方だ。

「あ、そうだったのか?わりぃ。全然気付かなかった」

「まぁ、いいけどなぁ」

相手の顔は確認できたし、本当にただのダチっぽいしと和真は心の中だけで呟く。
工藤と名乗った廉の先輩は久弥も今日初めて知り合った人らしいし。
和真は安堵してその輪に加わった。



(ところで、さっきは何の話してたんだ?)
(え?…な、何でもないよ。な、久弥)
(あー…、俺が人に見下ろされるのが嫌いだって話)
(それは遠回しに俺に縮めと言ってるのか、ヒサ)


end...


◇◆◇
路地裏小話36は路地裏小話14(Signal×彩王)のその後のお話。互いにまだチームの総長だとは知らずに友達になった廉と久弥。そこへ更に知り合いがやってくる話。彼らの心の内は様々。


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