九琉学園小話37(3CP)


こほっと小さく聞こえた咳に、判子を片手にぼんやりと生徒会長席に座っていた京介は音のした方へと目を向けた。
その先で、副会長席に座っていた静が喉に手をあて、あー、あーと妙な発声練習をしている。

「あの…会長」

ぼんやりとその姿を眺めていた京介の視界に書記の席を立った皐月が入り込む。

「なんだ?」

「早退させてもらってもいいですか?今日の分の仕事は寮に持ち帰ってするので…」

生徒会室に来てから終始そわそわと落ち着かなさげにしていた皐月の台詞に京介は朝から空席になっている会計の席にチラリと目を向けて口を開いた。

「いいぜ。宗太が心配なんだろ?早く帰って看病してやれ」

「はい!ありがとうございます」

いそいそと帰り支度を始めた皐月は、そうだ、と自分の鞄を探ると静の側に歩み寄る。

「静先輩」

「ん?」

「良かったらこれ食べて下さい。のど飴です」

「あぁ、さんきゅ。なんか朝起きたら喉に違和感あってさ。俺も風邪引いたかなぁ」

ポンポンと皐月の頭を撫でて、静は皐月を生徒会室から送り出した。
そして皐月と入れ替わるかのようにコンコンと生徒会室の扉がノックされ、京介が返事を返すと扉の向こうから明がひょっこり顔を出す。

「明?お前一人か?珍しいな、どうした」

「うん、ちょっと…」

顔を見せた明に京介が話しかけ、明はそれに答えながら静の元へと足を運んだ。
自分の元に近付いてきた明に静は喉元から手を離すと、ゆるりと瞳を細めて茶化すように笑った。

「何だ、俺に会いに来たのか明?」

「そうだよ」

しかし、茶化したつもりが真面目に返されて静は珍しく動きを止める。
その間に明は机の上に置かれたのど飴に気付き、僅かに顔をしかめた。

「やっぱり…。朝から何か声おかしかったし、体調悪いんじゃないのか?」

「あ…?」

「風邪は引き始めが肝心だって言うし。…神城、静、連れて帰ってもいいか?」

静の返事を聞かず、明は京介に話を振る。いつになく強引な明の様子に、心配の度合いを感じて京介はあっさり帰る許可を出した。

「移されても困るからな。さっさと連れて帰れ」

「おい、京介。俺は…」

「分かった。ありがと、神城」

のど飴を静の鞄に突っ込み、明は静を連れて生徒会室を出て行く。
バタンと閉まった扉に、生徒会室には京介だけが残された。

「はぁ…さっさと片付けて俺も帰るか」

右手に持っていた判子を朱肉に押し付ける。
目の前に置かれた書類にペタリと判を捺し、次の紙に手を伸ばした所で生徒会室の扉が開いた。

「お前一人か?」

室内に入ってきた圭志は室内を見回すと京介の元に歩み寄る。

「あぁ、皐月と静は帰った」

「ふぅん」

聞きながら、圭志は机を避けると京介の側へと回り込んで足を止めた。

「なら、お前も良いよな。帰ろうぜ」

「何がなら、なんだ。意味がわか…っ」

隣に立った圭志を見上げようとして京介は思わぬ距離にいた圭志に息を詰める。
身を屈めた圭志は見上げてきた京介の額にコツリと額を合わせると咎めるような声を出した。

「お前、朝より熱が上がってんじゃねぇか」

「熱…?俺は別に熱なんて…」

「自覚無しかよ。たち悪ぃな」

そっと離れた圭志は見たところ変わりない京介の姿に自覚を促す。

「朝のお前、普段より体温高かったぞ」

「気のせいじゃねぇのか?」

「どんだけお前と一緒に寝てると思ってる。くっついてりゃそれぐらい分かる」

「………」

「ごねてねぇで帰るぞ」

最近風邪が流行ってるからな、と圭志は反論を封じて京介を急かすと生徒会室から連れ出した。


(宗太先輩は僕が看病します)
(ありがとう皐月。でも無理はしないで下さいね)
(静ー。はい、薬飲んで)
(明が口移ししてくれるなら飲もうかな)
(ほら、さっさと寝ろよ京介)
(一緒に寝るか圭志?)


end...

◇◆◇
九琉学園-小話37-
風邪が流行中な学園で攻めが風邪っぴき。各CPの様子を小話として配信。


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