相沢兄弟小話27(Signal×恋愛)

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小話27(Signal×恋愛)


◇◆◇


「やばっ…寝坊した」

昨夜遅くまで仲間から借りていたゲームをしていたせいか、隼人は時計を見て珍しく慌てていた。バタバタと慌ただしく洗面所とリビング、自室を行き交い青楠の制服に袖を通す。

「………」

実家へと一時帰宅をしていた大和は食後の珈琲を飲みながらそんな弟の姿をリビングのソファに座ったまま静かに眺めていた。
空になったカップをソーサーに戻し、ちらりと天気予報が流れるテレビを一瞥してから大和はソファから立ち上がる。

ごちそうさまとキッチンにいる母親に一言投げて、大和はリビングから自室へと戻った。
そして、直ぐにまた自室から出ると大和は階段を降りて玄関に向かう。

ブーツを履き、外に出ると自室から持ってきたグローブを手に填めた。玄関横に停めていたバイクに鍵を挿し込み、フルフェイスのメットを被ったところで勢いよく開いた玄関扉から隼人が飛び出してくる。

「いってきます!」

その弟へ大和は落ち着いた静かな声を投げた。

「隼人」

「…っと!?」

それと同時に隼人に向けて大和は予備のメットを放り投げる。自分に向かって飛んできたメットを危なげ無く受け止めた隼人は、手の中に落ちたメットと大和の顔を交互に見て、嬉しげに表情を変えた。

「なに、兄貴。送ってってくれんの?」

「たまには乗せてやる」

答えになっているのかよく分からない返事を返しながら大和はスタンドを上げると慣れた動作でバイクに跨がる。
隼人は渡されたメットをいそいそと被ると大和の後ろに跨がった。

「やっぱり俺もバイク欲しいな」

しっかりと腰に腕が回されたのを確認して大和はエンジンを掛ける。
背後で嬉しそうにバイクの話をする隼人に、フルフェイスの下で微かに大和の口許が緩んだ。

「行くぞ」

「おぅ」

自宅から隼人の通う青楠高校まではバイクを飛ばせば三十分程で着く。大和も去年までは通っていた学校だ。

ばらばらと男子も女子もブレザーに身を包んだ青楠校生が、正門近くに停まった赤いバイクにちらちらと視線を向ける。
大和は周囲の視線など全く気にした素振りも見せず、エンジンをかけたままフルフェイスのシールドを指先で持ち上げると後ろから降りた隼人へ涼やかな目を向けた。

「遊ぶのもいいが本分を忘れるなよ」

「う…分かってるよ。はい、さんきゅ」

思わず釘を刺されて隼人は言葉を詰まらせながら脱いだメットを大和に返す。メットを受け取った大和はそれをバイクの後ろに掛けた網の中に納めると、僅かに跳ねた隼人の髪に気付いて隼人の頭をさらりと撫でた。

「兄貴…?」

訝しげに目線を上げた隼人に大和は何事もなかったかのように隼人から離した手で、上げていたシールドを下ろす。

「…行ってこい」

そして一言告げて、隼人から視線を外した大和はバイクのスロットルを開けた。
あっという間に遠ざかっていくバイクに隼人は分かりにくい兄の好意に、直された髪の毛に手を添え小さく口を動かした。

「いってきます」



(帰って一眠りするか…)
(さて、これから授業だ)

end...

◇◆◇
小話第27弾は再び恋愛×戦争とSignalに登場中の相沢兄弟。とある日の朝の風景。兄弟仲は普通で、少し弟を気にかける兄の一幕を小話として配信。

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