恋愛戦争小話23(拓磨+大和)
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小話23(拓磨+大和)
◇◆◇
手にしたメットを被り、スタンドを上げて見馴れたメタリックオーシャンブルーの車体を跨いだ拓磨に大和は声をかけた。
「帰るなら気を付けろよ」
それに拓磨はフルフェイスのシールドから覗いた目だけで答えると、疎らに街灯の灯る中、集会場から遠ざかって行く。そして踵を返した大和の前で、今まで集会に参加していた男達が世間話をするような口調で話出した。
「相変わらず後藤さんって格好良いよなぁ。寡黙っていうか、クールっていうか、何か…」
「あっ、それ、分かる!何かこうオーラが出てるっていうの?居るだけで空気違うよな。それにあの冷徹さがまた堪らねぇ」
「あれだろ?うちに馬鹿な喧嘩吹っ掛けてきたチームを一夜で潰したとかいう…」
大和は耳に入ってきた会話に双眸を細め、ポツリと溢す。
「冷徹、か…」
拓磨には似合わない、むしろ拓磨を指すには真逆の単語だと大和は思う。
集会場から少し離れ、適当に置かれていた椅子に腰を下ろした大和は微かに瞬く星が見える夜空を仰ぎ、そっと息を吐き出した。
どちらかと言えば拓磨は情が深い男だろう。
でなければ今も苦しんではいない。仲間の言う様に拓磨が本当に冷徹であったならもっと楽に生きれたはずだ。
そっと瞼を閉じ、大和はテールランプだけを残し闇の中へ消えたその後ろ姿を脳裏に思い起こし、酷く凍てついた声音で今はもう届かない相手へ向け言葉を吐き出した。
「本当、恨むぜ…志郎さん」
アンタが逝くには早過ぎた。
がやがやと集会が終わり騒ぐ仲間達の声を遠くに聞きながら大和は閉ざした瞼をゆっくり押し上げる。
「鴉は何とかここまで持ち直したが…」
一人、先にこの場を離れた拓磨の後ろ姿を思い出し大和は痛ましげに瞳を細めた。
「俺では…支えてやることは出来ない」
(拓磨自身が気持ちに区切りを着けるか、本当の意味でアイツを理解してくれる人間が現れるか…)
そこまで思考して大和は唇を歪める。
「そんな都合の良い話…あるわけがない」
自身を嘲笑するように呟いた大和はそれでも願わずにはいられない。
支えを失った拓磨を一番近くで見てきたからこそ。
(俺に出来ることは…)
「あ、居た居た!大和さん!ナインの総長が至急話がしたいと直ぐそこまで来てますがどうしますか?」
「…今行く。中へ通しておけ」
「っす」
(支えてやる事は出来ない。ならばせめて帰る場所ぐらいは…)
座っていた椅子から立ち上がり、大和は思考を切り換えるように視線を騒がしい仲間達へ向けた。
迷いを振り切り、鋭さを帯びた漆黒の双眸は闇をも退けてしまいそうなほど硬質な光を帯びていた。
(何かあっても無くても、お前が何時でも帰れる場所。それが鴉というチーム)
(鴉はお前のチームだ)
end...
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恋愛×戦争-小話23-
大和から見た拓磨。過去から現在へと大和の思いを綴った一幕を小話として配信。
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