特別小話-Halloween!

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Happy Halloween!


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中身のくり貫かれた大きなジャック・オ・ランタンが扉脇に鎮座する。
その夜、室内はハロウィン一色で染め上げられ、立食形式でパーティが開かれていた。
ドレスコードはもちろん仮装。

カチリとグラスを軽く触れ合わせ、シャパンに口を付けた圭志は無難にバトラー姿で決め、それに合わせてか京介は英国貴族風の衣装を身に纏う。
傍目から見るとその姿は主人と従者に見えた。が、本人達はまったく気にしていなかった。

周囲を見回し、何かに気付いた圭志が京介に身を寄せ耳元で囁く。

「見ろよ、京介。あそこに氷堂さんが居る」

相手に気付かれぬよう、ちらりと一瞬目を向けた京介はグラスで口許を隠して返事を返す。

「…珍しいな。こんなふざけたパーティに参加するなんて。それも連れがいるみてぇだし」

氷堂とは表向き複数の会社を運営するやり手の若手社長だ。表向きは…。
裏ではヤの付く自由業らしいが、その内情は限り無く黒に近い。なるべくなら近寄らない方が身の為だと社交界では言われている。

「猛…、何で俺がこんな格好しなきゃならないんだ」
「不満か?良く似合ってるぜ」

仮装はしているのかいないのかよく分からない。胸元を寛げ、男の色気垂れ流しなホスト風で、その連れは中性的な風貌をした…女か。あまり露出の無い漆黒のドレス姿で美男美女として注目を集めていた。

その側に京介は頭にターバンを巻いた金髪の海賊姿を見つける。

「おい圭志。あの海賊、工藤じゃねぇか?」

「本当だ。それなら坂下がどっかに…ん?あれか」

海賊から少し離れた場で、可愛らしい水兵服姿の廉がデザートを皿に移している。どうやら工藤はその姿を見守っているようだった。

「う〜ん、これだけあると迷うなぁ」
「残ったら俺が食べてやるから好きなの取れよ」

何とも微笑ましいその様子に圭志の口許に笑みが浮かぶ。

「圭志」

そちらに意識を向けているとさらりと京介に腰を浚われ抱き寄せられる。
直後、圭志の立って居た場所に何処からともなくフォークが飛んできた。

「さんきゅ、京介」

「いや。それより誰だ。危ねぇな」

二人が視線を移した先に、シャンデリアの光を受けてきらきらと輝く銀髪。手にしたオプションの箒を振り回す魔女は怒り心頭の様子だ。
もう魔女と言うよりメデューサに近い。

「アイツは確か…糸井家次男の問題児」

「知ってるのか京介」

腰を抱かれたまま圭志は聞く。

「あぁ。なんでも素行不良で四月から九琉とは違う全寮制の学園に放り込まれたらしい」

「へぇ…、って。お前どさくさに紛れて何処触ってんだ」

ベシリと腰のラインをなぞってきた京介の手を叩く。

「主人にこの扱いはねぇだろ」

「誰が主人だ。俺はお前の下に付いたつもりはねぇよ。それにお前だって…」

呆れたように突っ込みを入れた気の強いバトラーは次の瞬間主人の胸元を軽く押して、悪戯にその頬に触れると指先を滑らせ笑った。

「従順な奴より噛み付いてくる奴の方が好みだろ?」

言われた台詞に京介は頬に触れた手を取り、その掌に唇を寄せて返す。

「誘ってるのか?」

すぐ側を通ったボーイに空になったグラスを渡し、圭志は瞳を細めた。

「さぁ?どっちだろうな」

「言えよ」

「…Trick or treat?」

「あいにく菓子類は持ってねぇ。さて、お前は俺にどんな悪戯をしてくれるんだ?」

いつもと違う服装、雰囲気に包まれ、そこかしこから楽しげな声が上がる。灯りの灯されたカボチャから淡く温かな光が零れ、深まっていく夜を幻想的に浮かび上がらせていた――。


end...

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-特別小話-Happy Halloween!
ハロウィンだと気付いて急遽書いてみた小話。色々詰め込み過ぎてぎゅうぎゅうに。こんな機会でもなければ各小説のコラボ出来ませんので。


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