Signal小話15(工藤×廉)

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小話]X(工藤×廉)


◇◆◇

ふと浮上した意識が音を拾う。柔らかく耳に心地良い低音。聞き慣れた…。

「…ん、…気が付いたか、廉?」

何だか重たい瞼を押し上げればぼやけた視界に誰かの輪郭が映る。
額に乗せられた冷たい何かが退かされ、前髪を払われた額に温かな掌が置かれた。

「…れ?くどー…?」

額に触れる掌に無意識にほっと息を吐いて、ぼやける視界を瞬いてクリアにすれば心配そうな顔をした工藤が瞳に映った。

「大丈夫か?水いるか?」

「ん…、何で、俺…」

工藤の後ろに見える景色。少しだけ視線を巡らせればここが工藤の家だと分かる。
そして何故か俺は工藤のベッドの上に身を横たえていた。

「お前熱中症で倒れたんだぞ」

回転の鈍い頭に工藤の声が入ってくる。
水の入ったペットボトルに工藤が口を付け、近付いてくる姿を俺はぼんやりと見つめていた。

(……ちかい)

そうして…そっと唇が重ねられる。
薄く開いた口の中へ冷たい水を流し込まれ、瞼を伏せた工藤の端整な顔がぼやけて見えた。

「ん…!くどっ、ぅ…ンッ…」

口端から零れた水を舌先で掬いとられ、可愛らしいリップ音を立てて唇が離れていく。
例えそれが水を与える為にされた行為だと分かっても俺は…

「なっ、な、何してんだよ工藤!」

狼狽えずにはいられなかった。俺の体温は冷めるどころか先程よりも絶対に上がっている。意識がはっきりと戻ってきた俺は顔を赤く染めて、起き上がったベッドの上で工藤から距離をとるように後ずさった。

(あ…れ?俺…シャツ…)

「もっといるか?」

「いらないっ」

しれっとした顔で聞く工藤に羞恥心はないのか。いつの間にか第四ボタンまで外されていたシャツを俺は慌てて手繰り寄せ、そして工藤は何故かそんな俺を見つめてゆるりと穏やかに笑った。

「もう大丈夫そうだな」

「あ…」

「目の前で倒れた時はどうしようかと思ったぜ」

「―っ、あ、ありがと」

心配したと、優しく伸ばされた右手を俺は避けれなかった。
俺が目を開けた時、心配そうに表情を曇らせた工藤の顔を思い出してしまったから。

だから、くしゃりと頭を撫でる掌に恥ずかしさを感じながらも俺は大人しく工藤の掌を受け入れた。


(でも、…好き、かもしれない。工藤に頭を撫でられるのは…)
(あまり煽ってくれるなよ。これでも我慢してるんだからな)


end...

◇◆◇
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とある夏の日の一幕を小話として配信。甘い、けれど残念ながらまだ恋人ではない二人。

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