路地裏小話11(Signal×恋愛)

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明かりの少ない、薄暗い路地を入った先。一度も染めた事の無い黒髪を靡かせ、少年が駆け抜ける。

「廉。こんな所で何してる」

その少年の背へ、ひやりと冷たく鋭い声がとんだ。

「――っ!?」

いきなりかけられた声に廉はびくりと肩をはねさせ、駆けていた足を止めると勢い良く背後を振り返った。

「隼人はどうした。一緒じゃないのか?」

「っ、大和さん。隼人とはこの先で待ち合わせで…」

一歩一歩、廉に近付いてくる大和の後ろには廉の知らない人物がいる。背は大和より低く、どことなく纏う雰囲気は冷たい。廉の視線に気付いたのか、青年が大和に声を掛けた。

「知り合いか?」

「あぁ、弟の友人だ。拓磨、悪いが先に行っててくれ」

「遅れるなよ」

異論もなく頷いた拓磨は二人から離れて行く。
廉は自分に向けられた涼やかな眼差しに居心地悪くたじろいだ。

「俺が何を言いたいか分かるな?」

「うっ…、はい。夜はなるべく明るくて人通りの多い道を歩け。それから一人になるな」

「分かってるなら隼人を呼べ。何かあってからじゃ遅い」

大和の視線一つで廉はさっと携帯電話を取り出す。隼人へと電話をかければ、すぐ行くからそこで待ってろと言われ通話は切れた。間もなく、駆けてくる足音が近付く。

「夜遊びを止めろとは言わねぇがお前にしろ…隼人、わざわざ自分から危ねぇ事に首を突っ込むな」

すと流れた大和の視線は廉の後方を刺した。

「あ、隼人…」

「兄貴…?何で此処に」

「野暮用だ。それより遊ぶ場所は選べ」

後ろを振り返った廉の背に、ふわりと低い体温を持った掌が触れる。大和に軽く背を押され、廉は隼人に向かって一歩足を踏み出す。それ以上何も言わず大和は隼人と視線を交わすと静かに背を向け、その場から離れた。

「良いのか、弟に教えなくて。ここは今から危なくなる」

「待ってたのか拓磨。…アイツ等も馬鹿じゃない。今ので分かったはずだ」

壁に預けていた背を離し、拓磨は大和の隣に並んで歩き出す。その際、拓磨は感情の読めない瞳を大和へ向け、続けて言った。

「随分信用してるんだな」

向けられた視線に気付きながらも大和は前を見据えたまま。

「…俺はお前の事も同じぐらい信頼してる」

「………」

返ってきた答えに拓磨がどんな表情を浮かべたのか大和は見ることなく、深まる夜の中を歩いて行った。


(…悪い、大和。俺は…)
(謝るな。俺が勝手に信頼してるだけだ)

end...

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小話]Tは路地裏から-Signal×恋愛-。
相沢兄弟と廉、拓磨。夜の街での遭遇。本編では書けない出会いの一幕、大和と拓磨の関係をちょっぴり、小話として配信。

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