彩王学園小話9(久弥受け)

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小話\(久弥受け)


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ダンッ、と右手を背中で捻り上げられ、冷たい壁に強く体を押し付けられる。腕から脳天にかけて走った痛みに、久弥は声を出さぬようグッと奥歯を噛み締め耐えた。

「――っ、にすんだてめぇ」

喉の奥から唸るように出た声は思ったより低く。久弥は首だけで後ろを振り向き、自分を壁に押し付けた相手を眼鏡越しに睨みつけた。

「ハッ、うろちょろといつまでも逃げられると思うなよ似非優等生」

眼前に迫った眼差しはナイフの様に鋭く、唇は獲物をいたぶるように弧を描く。遊士は久弥の反応を楽しむ様にその耳元へ唇を寄せた。

「こっの!離せっ!」

ゾワリと背筋に走った悪寒に久弥は肩を震わせもがく。しかし、逃げ出そうにも遊士には來希の様な隙がなかった。

「どうした?もう終わりか?」

クツクツと落ちる声に、腕を捻り上げたのとは逆の手が久弥の顔に伸びてくる。
するりと耳から眼鏡を抜き取られ、背後にカシャンと投げ捨てられる。

「あっ、おい!」

「つまらねぇな。もっと足掻いてみせろ」

遮るものの無くなった視界は広く、久弥は見下ろす漆黒の瞳を人工の黒い目でキッと睨み上げる。

「そうだ、俺を楽しませろ」

すると遊士は愉快そうにクツリと笑みを溢し、久弥の首筋に顔を埋めた。
途端、ピリッと痺れた様な痛みが首筋に走る。

「っう、なにを…」

「さぁ?お前の周りにいる番犬どもにでも聞いてみるんだな」

痛みの走ったそこを遊士の冷たい指先が滑り、久弥は唐突に遊士の拘束から解放された。と同時に久弥はすぐさま遊士から距離をとり、反撃の為に右拳を握る。

そしてピリピリと張り詰める空気を裂く様に久弥は右拳を遊士目掛けて突き出した…はず、だった。

「なっ…!?」

久弥の拳が遊士にぶつかった瞬間、その像はぐにゃりと歪み、目の前からパッと消え失せる。
代わりに、久弥の目に來希の姿が飛び込んできた。

「おっと、危ねぇな…」

そう、ソファに寝転ぶ自分の上に覆い被さった來希の姿が。突き出した久弥の拳を受け止めていた。

「…お前のせいか。俺が悪夢を見たのは」

「何だ?俺の夢でも見たか?」

にやりと笑って見下ろす來希が癪に触り、急所を膝蹴りで狙う。さっと素早く上から退いた來希に久弥は舌打ちをして上体を起こした。

「寝言は寝てから言え」

「誘ってんのか?」

からかいの色を含みつつも油断なく隙を窺う來希に久弥も鋭い眼差しを返し、ソファの上に置かれたクッションを來希の顔面に向けて投げつけた。



(チッ、無駄に反射神経の良い奴め)
(抵抗する奴ほど捩じ伏せたくなるよな)


end...

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彩王学園-小話\-
何でもありな久弥の学園生活の一幕を小話として配信。

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