08


生徒会長室から出て、反対側の並びにある風紀副委員長室のインターホンを押す。

「明、俺だけど」

中から確認する声に返せば、すぐに扉が開けられた。

「どうぞー。中に入って」

「お邪魔します」

玄関を上がり、リビングへと通される。圭志はその間取りを見て、京介の部屋と対して変わらない事に気付いた。

「何か、いつもの部屋と違うから落ち着かなくてさ」

ソファーに座った圭志の前に飲み物が置かれる。

「そういや明は普段次席の部屋で過ごしてるよな。この部屋は使わないのか?」

「うん。出来るだけ皆と、普通の生徒として過ごしたいなって思って。それにこの部屋に一人ってちょっと寂しいし…、って何言ってんだろ俺」

恥ずかしそうに笑った明に、圭志は良いんじゃねぇのと口元を緩めた。

「お前らしいし」

「そ、そうかな?」

「あぁ」

明はホッとしたように表情を柔らかくした。

それを見てから圭志は本題へと入る。

「明。この前は本当に悪かったな。色々心配かけて」

「いや、それは俺が勝手に…」

「いいから聞け。お前には話そうと思ってたんだ、俺の事。つまらねぇ話かもしれねぇけど」

京介は俺が言う前に知っていた。何度考えてもアイツの行動力は凄いと思う。

苦笑しながら言った俺の台詞に明は言葉を被せる。

「そんなことない!黒月の大切な話だろ」

そうだ。明は人の事で泣けるぐらいお人好しだった。

圭志は頷き返して、夏休み前に起こった一連の事件の話を始めた。









「なぁ京介。お前、黒月と夏の間ずっと一緒って本当か?」

校舎にある生徒会室で会議をする静は、右斜め前に座って資料を捲る京介に真面目な顔をして聞いた。

それに、正面の席に座る宗太も気になっていたのか京介を見る。

「あっ、僕もその噂聞きました!本当なんですか?」

宗太の右隣に座っていた皐月も声を上げ、同じ様に京介に視線を投げた。

その問いに、京介は手元の紙から視線を上げて答える。

「本当だ。それがどうした?」

「どうした、って黒月が良くオッケーしたな」

意外だと言う静に京介は口端を吊り上げた。

「ふっ、俺が誘ったんじゃねぇよ。圭志が俺を誘ったんだ」

「黒月君が!?」

その発言には、静のみならず宗太と皐月も目を見開いて驚く。

「可愛い所もあるだろ。…ま、誰にも見せる気はねぇけどな」

その時の事を思い出して笑みを溢す京介に、静は眼鏡を押し上げて難しい顔をした。

「その前に可愛い黒月ってのが想像できない…」

「確かに。それより京介、さらりとノロケないで下さい」

「噂はやっぱり本当だったんですね」

口々に思った事を呟く三人に京介も聞き返す。

「そういうお前等はどうなんだ。宗太と皐月は一緒だろ。静、お前明はどうした?」

話の矛先が自分に向けられると、静はニヤリと何だか意味ありげな笑みを浮かべた。









「ってワケだ…」

粗方話圭志から話を聞き終えた明は何とも言えない表情を浮かべた。

「俺、知らなくて…ごめん。でも、これからは何かあったら俺にも、頼り無いかも知れないけど言えよ!…友達だろ?」

伺うような、けれど決して譲らない、揺らがないその目に圭志の心が温かくなる。

これまで友人と呼べる人間は居たにはいたが、その間にはどこか距離があった。それは圭志が自らに近寄らせない様に作った距離ではあるが、目の前にいる明には通用しなかったらしい。

「…そうだな。お前は俺の友達だ」

「と、友達なら遠慮するなよ!」

自分で友達だと言っておきながら、圭志が緩やかに笑みを溢して返せば明は照れたようにほんの少し言葉を詰まらせた。

「分かった。頼りにしてるぜ明」

「うん。神城みたいにとはいかないけど…」

「何言ってんだよ。明は明だろ?お前にしか出来ないことだってある。それに、京介と比べる必要はねぇ。アイツは何て言うか…別だ。色々と。反則すぎるんだよアイツ」

だいたい、京介はな…

途中から愚痴に変わった圭志の言葉に明は苦笑する。

そして、初めて見る圭志の拗ねたようなその表情に明は思った。

これもきっと神城が引き出したものの一つなんだ。黒月はずっと大人びて見えていたのに、今はそんなこと微塵も感じさせない。

「やっぱり神城って凄いな」

「どこが?俺の話聞いてたか明?」

「……うん」

はぁー、と息を吐いて明が出したグラスを掴む圭志は新しく出来た友達をうろんげな目で見つめた。
その視線に気付いたのか明は慌てて話を変える。

「それより、あの噂は本当なのか?」

「噂?」

これといって心当たりの無い圭志は首を傾げて聞き返した。

「知らないのか?ってことは嘘…?」

「俺に関する噂なのか?」

「うん。クラスの皆が俺に聞きに来てさ。黒月、神城と夏休み中一緒って本当なのか?」

半信半疑の眼差しで聞いてくる明に、圭志は一瞬言葉に詰まった。実際他の人間の口からそう言われると何だか面映ゆい。

「…まぁ。嘘ではねぇな」

「本当に?」

「あぁ。それにその話、俺が言い出したんだ」

カランと、グラスの中身を飲み干して圭志は驚く明に言葉を続けた。

「始めは勢いで言っちまったようなもんだけど、今は少し楽しみにしてるんだ。ここじゃ見れねぇアイツが見れるかも知れねぇし、俺だって…っと、何でもねえ。今の、京介には言うなよ」

「あ…うん。麦茶おかわりいる?」

「頼む」

空のグラスを受け取った明はそそくさと席を立つ。

明はなんだか落ち着かなかった。ましてや、黒月の口からノロケ?を聞くとは。

聞いてる俺が恥ずかしい…。

熱を持ちそうな顔を、冷蔵庫を開けて冷やす。

扉から麦茶の入ったポットを取り出して、空のグラスに注いだ。


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