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理事長室の扉を圭志がノックする。

「どうぞ」

中からそう返事が返り、京介が扉を開けた。

二人揃って入って来た姿に、椅子に座って待っていた竜哉は深い笑みを浮かべた。

「良く来てくれたね。まぁ、ちょっとそこに座って」

対面式のソファーに座るよう促され、二人が座ると竜哉も席を立ち二人とは反対側のソファーに腰掛けた。

「それで竜哉さん、俺達に何の用?」

理事長室へ来るまでに呼び出された理由を考えたが結局思い浮かばなくて、圭志はストレートに聞いた。

「それなんだけど…やっぱり少し言いにくいな」

「さっさと言え」

呼び出しておきながらはっきりしない竜哉に京介が鋭い視線を投げる。

「…うん、夏休みの間、圭志くんには京介くんの家に行ってもらうことになったから」

「は…?京介ん家?何でだよ?」

「何言ってやがる。夏期休暇中は例年通り寮で過ごすことになってるはずだろ」

予想していなかった展開に圭志と京介はそれぞれ声を上げる。

「今日のHRで説明された筈なんだけど、君たち二人とも担任の話しを聞いていなかったな」

「そんなことどうでもいい。どうしてそうなったのか理由だけ言え」

京介の言葉に悪びれた様子もなく圭志も頷いた。

「圭志くんまで…。まったく君たちは昔から二人揃うと怖いもの無しだな」

竜哉は苦笑して言った。

「京介くんの言う通り普通は夏期休暇中でも寮で過ごしてもらうんだけど、今年は寮に改装工事が入る予定になっていてね。もちろん夏期休暇中に工事を終えて、休みが終わる前には入寮出来るようにする」

随分前から立てていた計画だ、と説明され圭志は疑問に思った事を聞き返す。

「寮に居れないのは分かったけど何で俺が京介ん家に行かなきゃなんねぇんだよ?自分家に帰ったって良いんだろ」

「あぁ、それなんだけど自宅の方は長期間留守にするって分かってたから、セキュリティー会社と契約して鍵も全て換えて防犯体勢を完璧にして兄さんが持って行っちゃったらしいんだ。だから今あの家には誰も入れない」

「余計なことをあのクソ親父…」

ポツリと隣から漏らされる文句を聞きながら次は京介が疑問をぶつけた。

「ようは圭志を俺ん家に連れて帰ればいいんだな?」

「そう。姉さんの所とももう話しはついてるらしいから、頼んだよ京介くん」

「そんなことアンタに言われるまでもねぇ。用はそれだけだな?行くぞ、圭志」

スッとソファーから立ち上がった京介は圭志を促す。

「申請の出されてる校舎の方は普通に使えるからね京介くん」

竜哉はそう言って理事長室を出て行く二人を見送った。

「やれやれ。仲良くやってくれるといいけど…」

兄さんも無茶をするな。









理事長室を出て、圭志はため息と共に言葉を吐く。

「嵌められた…。ぜってぇ親父の策だ」

「諦めろ。俺もお前の親父と電話で話したことはあるが勝てる気はしねぇ」

珍しく弱気な発言に圭志は少し驚いて京介を見た。

「お前でもそう思うことがあるんだな」

「俺を何だと思ってんだお前は」

「俺様、もしくは暴君」

「暴君はお前の親父だ。大体電話がどうのって話だってタイミングを図ったように向こうからかかって来たんだぜ?俺がかけたわけじゃねぇ」

それじゃぁ、と圭志は考える。

これまで親父の掌の上で踊らされていたって言うは間違いじゃなかったのか?俺も京介も?

そこまで考えて圭志は段々と腹が立ってきた。

「京介、お前何とも思わねぇのか?」

鋭さを増した圭志の視線に京介は言う。

「勝てる気はしねぇ、けど負ける気もしねぇ」

「だったら夏休みの間俺に付き合え。親父の言う通り素直にお前ん家に行くのが嫌だ」

子供染みた事を言い始めた圭志に京介は内心驚いた。だが、すぐに笑みに変わる。

ほんの少し前までの圭志なら思ってもそんなこと京介には言わなかっただろう。

言わずに一人で実行に移していた筈だ。

これは無意識にでも少しずつ京介に心を許している証拠か…。

「そうだな。夏の始めと終わりの二週間は生徒会の仕事があって無理だが、…二人だけでどっか行くか?」

思い切った京介の誘いに圭志ははっきりと首を縦に振った。


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