05


理事長室を後にした圭志は寮に向かってのんびりと校内を歩いていた。

今の時間、授業中らしく廊下には誰もいない。圭志は小脇にパンフレットを抱え、ポケットに両手を突っ込んだ状態で欠伸をした。

「それにしても眠いな…」

ちょうどその時、右側の曲がり角から人が飛び出して来た。

「わぁ!?」

「おっと…」

飛び出して来た人物は圭志にぶつかるとその反動で後ろに尻餅をついた。

一方、圭志の方は倒れはしなかったものの小脇に抱えていたパンフレットを落とした。

「おい、大丈夫か?」

足元に落ちたパンフレットを拾いながら、尻餅をついている少年に声を掛ける。

「だ、大丈夫です」

少年は右手で鼻を抑えたまま顔を上げるとのろのろと立ち上がる。

少年は大きな茶色い瞳にふわふわの茶髪、背は圭志より低く、立ち上がると圭志を見上げてきた。

「すいません、急いでたもので…。えっと…?」

少年は圭志が制服ではなく私服なのに気付くと首を傾げる。

「あぁ、俺編入生」

そう言った途端、目の前の少年は目をキラキラ輝かせた。


「じゃぁ、貴方が噂の黒月先輩ですか!?うわぁ、カッコイイ!!」

「噂?」

「はい。全国模試トップの常連、黒月 圭志が九琉学園に編入してくるって学内じゃ噂になってるんです。ずっと順位を落とさないからどんな人物なのか、色々と憶測が飛び交ってて…。あっ、すいません。いきなりこんなお話して」

少年は自分の発言にあたふたと慌て始める。

そんなころころと表情の変わる少年を見て圭志は笑い出す。

「くっ、ははははは…。お前面白いな、名前は?」

「あ、流 皐月(ナガレ サツキ)です」

「皐月ね。お前、1年?」

圭志は皐月の制服のネクタイの色をちらりと見て聞く。

九琉学園の制服は基本的に黒のブレザーにストライプのネクタイで、そのネクタイの色で学年が判るようになっている。

1年は緑、2年は赤、3年は青、といったように。

しかし、皐月は黒に金のラインの入ったネクタイをしていた。

皐月は自分のネクタイを掴んで圭志に見せながら言う。

「はい。僕は1年だから本当は緑なんですけど、生徒会に入ってるからネクタイの色が他の人と違うんです」


圭志は皐月のネクタイをじっと見ながらぼんやりと思い出す。

(そういやアイツのネクタイも黒に金のラインが入ってたような…あれ?)

「なぁ、皐月。黒に金と銀のラインが入ってるのは…」

「あっ、それは会長ですよ」

(アイツ本当に生徒会長だったんだ…)

第三者の口からそう言われて、今頃になって圭志は納得していた。


それから皐月はネクタイの色について教えてくれた。

皐月の話によると、生徒会と風紀だけは色が違うらしい。

会長が黒に金と銀。他役員が皐月の様に黒に金のライン。

風紀は委員長が白に金と銀。副委員長が白に金のライン。

ちなみに皐月は生徒会で書記をやっているのだと教えてくれた。

「ところで先輩、会長と会ったんですか?」

説明を終えると皐月は興味深々といった目で圭志を見上げてくる。

圭志はそんな分かりやすい皐月の態度に苦笑を浮かべると言う。

「あぁ、まぁな。それよりもお前急いでたんじゃないのか?」

圭志は話を反らすため、皐月がぶつかってきた理由を聞く。

その言葉に皐月は一瞬キョトンと目を瞬かせるが、はっと思い出して叫ぶ。


「あー、そうだった!宗太(ソウタ)先輩に呼び出されてたんだ!早く行かないと…」

急におろおろし始めた皐月を見て、こいつ犬みてぇで結構可愛いなと圭志は心の中で思った。

つい、手でふわふわの頭を叩く。

「ほら、その先輩が待ってんだろ?早く行ってやれ」

「〜っ、はい。それじゃ、またお話しして下さいね」

皐月はそれだけ言うと廊下を走って行ってしまった。圭志はそのあまりの速さに呆気にとられる。

「足速ぇな皐月。それともそんなに遅れられない理由でもあんのか…」

(まぁ、十中八九あるんだろうな。宗太先輩とやらの名前が出た途端青くなったり赤くなったりして…本当可愛い奴)

分かりやすい皐月の反応を思い出して笑うと、寮に向かうべく歩き始めた。


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