04


翌日、京介の部屋にもう一泊した圭志は成り行きで京介と登校することに。

右足の完治していない圭志はいつもよりゆっくりと歩く。

「京介、先行ってていいぜ」

それに合わせるように隣を歩く京介に圭志は言った。

「気にするな、どうせ行き先は同じだ」

京介と圭志、二人で登校してきた事に周りの生徒達はざわざわと騒ぎ出した。

「え!?何で黒月が会長と…」

「うわぁ〜、珍し…」

「キャー!!見て見て、お二人が一緒に歩いてる!」

「ねぇ、もしかして昨日の記事…」

「あっ!そうかも。アレは圭志様の為だったりして。羨ましい〜」

ちらちらと向けられる視線に気付きつつも圭志はそれら全てを無視した。

(俺がコイツといるのがそんなに珍しいか?)

昨日休んだ圭志は学園新聞が張り出された事も、京介が彼らにどういう処分を下したのかもまだ知らなかった。

視線を集めたまま圭志は教室の扉を開ける。

すると、そこでもクラスメート達から視線を投げられた。

「何だよ?」

流石にここまで注目されると圭志も眉を寄せて睨み返す。

その中でいち早く反応した人物がガタリと椅子を倒して教室の入り口に立つ圭志の元へやって来た。

「黒月!お前どこにいたんだよ!今朝、一緒に行こうと思って迎えに行ったのに留守だし、俺…」

「明?とりあえず落ち着け」

先に登校していた明は圭志の姿をみるなり詰め寄った。

明には心配ばっかりかけてんな、と圭志は罪悪感を感じつつも少し嬉しかった。

入口に突っ立ったままじゃ邪魔なので各自自分の席に座る。

「で、何処に居たんだよ?」

心配そうにする明に、圭志が口を開く前に、京介が答えた。

「明、お前が心配することは何もねぇぜ。コイツは俺の所に居たんだからな」

そう言って、京介は明にだけでなく教室にいる人間全員に聞こえるように言った。

途端、やっぱりとかそうだったんだ、など納得したような言葉が口々に漏らされる。

「おい、やっぱりってどういう意味だ?」

圭志はいぶかしんで、前方の席に座り皆と同じくこちらを見ていた河合を捕まえて聞いた。

河合 充、明の親衛隊隊長。圭志が明にちょっかいを出しているという当初の誤解は解けて、今は普通のクラスメートだ。

「そ、それは昨日の学園新聞に…」

明が近くにいるせいかその頬がほんのり赤い。

「学園新聞?」

昨日の出来事をまったく知らない圭志は聞き返した。








河合から学園新聞の内容を一通り聞いた圭志は何とも言えない表情を浮かべた。

「理由は誰にも分からないけど事実、京介様の親衛隊は解散してるし。張り出された退学者の大半は京介様の元親衛隊。それに、生徒会が正式に発行する紙っていうのは必ず生徒会長である京介様の印が必要なわけで…」

誰が何故、何の為に?
そう考えた時思い浮かぶのは…。

「それで昨日から黒月の為に京介様が動いたんじゃないかって噂が…」

圭志は隣で涼しい顔して聞いていた京介に視線を向ける。

すると京介はニヤリと口端を吊り上げて河合の推測を肯定した。

「ソイツの言うことは間違いじゃねぇ。ただ付け加えるなら、お前に手ぇ出したらあぁなると見せしめも兼ねてだ」

「……お前…何、やってんだよ。馬鹿じゃねぇの」

ふっと笑った京介から視線を反らし、圭志は口元を掌で覆って震える声でそう非難した。

そこには恥ずかしさよりも嬉しく思う自分がいて、圭志は信じらんねぇと続けて小さく呟いた。

圭志達の会話を息を潜めて聞いていたクラスメートは皆、顔を見合わせひそひそと話し出す。

しかし、その話の中には不思議と圭志と京介の仲を悪くいう人間はいなかった。

どちらかといえば皆、二人を認め、祝福していた。

「だってよ、あの神城と黒月だぜ。くっつかない方が可笑しいだろ、な?」

「うん。口で言うほど黒月は神城の事嫌ってなかったしな」

「なんか京介様には圭志様って、納得しちゃったから…」

などなど…。







「良し、今日は全員来てるな。ホームルーム始めるぞー」

始業の鐘と共に教室に入って来た藍人のかけ声で圭志は日常が戻って来た様な気がした。

「まず二日目に受けたテスト返却するから、名前呼ばれた奴から取りに来い」

京介と圭志はそれぞれ昨日の分も渡される。

「お前等二人は優秀っちゃ優秀だが、俺達教師からしたら問題児だ。あのな、いくらテストで点採れるからって授業に出なくて良いってワケじゃねぇぞ」

圭志は藍人から返却されたテスト用紙に視線を落とし、まぁこんなもんかと藍人の言葉をさらりと流した。

京介に至ってはスルーだ。

「…ったく、神城!」

さっさと席に戻ろうとする京介の背に藍人は声をかけ、引き留める。

「まだ何かあるのか?」

面倒くさそうに振り返った京介に藍人は一拍置いて告げた。

「理事長がお呼びだ。ホームルームが終わったら理事長室へ行け」

理事長と聞いて京介が嫌な顔をする。

「黒月、お前もだ。神城と一緒に行って来い」

「俺も…?」

特に呼び出されるような用は…、と考えて圭志は首を傾げた。

「そうだ。さ、次の連絡事項に移るぞ」

席についた二人に明がもしかして、と口を開く。

「学園新聞の件?神城、結構無茶な事したんじゃ…」

「それはねぇな。そもそも今回の件で最終的に退学通知に印を捺したのはアイツだぜ」

「じゃぁ何だよ?」

「おい圭志、何俺のせいだって決めつけてんだ」

三人は前を向いて話しを聞け、と藍人に注意されるまで話していた。



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