02


ルームサービスで昼食を取り、何とか熱が平熱まで下がった圭志は当然、自室へ帰ろうとした。

「じゃぁ、俺もう帰るな。熱も下がったし、もう平気だ」

平気じゃないのはこの空気の方。朝からざわざわと落ち着かない気持ちにさせるもの。それは…。

「待てよ。そう急ぐ用事もねぇだろ?まだ此処に居ろ」

しかし、それを京介が許す筈がなかった。

強い視線が、行くなと告げる。

「…居てもいいけどお前忙しいんじゃねぇのかよ?俺の相手なんかしてる暇ないだろ」

圭志はその視線を避けるようにテーブルへ置かれた書類に目を移した。

「これか?別に至急ってわけじゃねぇし、お前が寝てて暇だから目ぇ通してただけだ」

それはつまり、暇潰しに生徒会の仕事をしていたと。

そう捕れる発言に圭志は呆れたように言った。

「暇だからって…、お前よくそれで会長が務まるな。渡良瀬の苦労が目に浮かぶぜ」

「事実、これでやって来てんだ。問題はねぇ。…それより、俺と居る時に他の奴の名を口にするな」

グッと腕を強く引かれ、そう身長の変わらない京介の腕の中へ閉じ込められる。

「ちょっ…!」

「お前の目の前にいるのは俺だ」

耳に寄せられた唇が低い声音で囁いた。


どくどく、と鼓動が速まり身体の体温が上がる。

「ンなの、言われなくてもここには俺とお前しかいねぇだろ」

だからこの部屋は居心地がいいけど落ち着かねぇ。

努めて平静な声で圭志は言い返し、京介の腕の中で身じろぐ。

そんな、抱き締めても逃げようとしない圭志に京介は機嫌を良くし僅かに口元を緩めた。

「そういう意味じゃねぇ事ぐらい聡いお前なら分かってるだろ?」

京介の右手が圭志の顎にかけられ、持ち上げられる。

二人で居る時にわざわざ他の奴の話なんて聞きたくねぇし、ましてやその名を口にするなど…。

そんなこと本当は分かっている。だからと言って、そうすんなり頷ける性格になった覚えはない。

「京介」

顎にかけられた手を逆に掴み、余裕を装い不敵に笑って見せる。

「俺に目移りされたくなきゃ、この手を離さねぇことだ」

俺は朝からお前に心を乱されてるんだ。今度は俺がお前のその余裕崩してやる。

掴んだ手を握り、顎から外させると口元に持っていく。

その指先に唇を押し当て圭志は京介と視線を絡ませた。


挑発的な仕草に京介は愉快そうに口の端を吊り上げ、圭志に捕られた手を取り返すとその手を圭志の後頭部に差し入れた。

「上等。お前の望み通り俺しか見えねぇようにしてやる」

近付く距離に、心臓が煩いぐらいザワザワと騒ぐ。

立ち位置は違えど場数はそれなりに踏んできた。なのにいつものように感情が上手くコントロール出来ない。

圭志は京介の服を掴み、その気持ちを誤魔化すように自らもその距離を縮めた。

だけど、決して自分から触れるような事はしなかった。

「んっ…」

だって、そうしたらまるで俺がお前を求めてるみたいじゃねぇか。そんなの…。お前が俺を欲しがれば良い―。

重ねた唇、僅かに口を開けば舌が侵入してくる。

「…っ…ふっ…」

歯列をなぞり、舌を絡めとられ、唾液が混ざり合う。

「んっ…は…んん…」

背筋がゾクゾクと震える。合わせた唇から水音がし、鼓膜を震わせた。

角度を変え深く浅く交わされる口付けに、うっすら瞼を押し上げた圭志の視線の先に、京介の熱を帯びた強い視線がある。

「…っ…ふ…んっ…」

その瞳には自分だけが写っている。その揺るぎない想いに、圭志は熱の集まる頬を微かに、嬉しそうに綻ばせた。


腕を、京介の首に絡めればドサッとソファーに押し倒される。

「ふっ…はぁ…」

唇が離れれば、名残惜しむように互いの間を銀糸が繋いだ。

「圭志」

着ていた服に京介の指が掛かる。

圭志は頬を紅潮させたまま、京介の下でみじろぎ濡れた唇で誘うように甘く囁いた。

「…俺を夢中にさせてくれんだろ?やってみろよ」

はだけられた首筋に京介の吐息がかかり、チクリと痛みが走る。

「…んっ」

着ていた服の中に指が侵入して来て直接肌に触れられる。

その指先に、馬鹿みたいに意識が持っていかれ圭志は身体を震わせた。

「今さら嫌だって言っても止めねぇからな」

「…はっ、…誰が言うかよ…」

京介の首に絡めていた腕を解き、圭志も京介の服に指をかけた。

「…ん…くっ…」

服をソファーの下に落とし、京介の唇が圭志の肌に寄せられる。

弱い刺激に、びくりと震える目の前の身体に、京介は肌に触れていた右手をゆっくりと滑らせ圭志のベルトにかけた。

「ぁあ…!んっ…っ…」

いきなり与えられた強い刺激に、思わず高い声が出て圭志は咄嗟に唇を噛み締めていた。

「声、聞かせろよ」

ふっと笑った京介を圭志は潤んだ瞳で睨み付けた。



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