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うっすら開いた唇にスルリと舌が侵入してきて、舌を絡めとられる。

「んっ…んん…」

圭志も負けじと積極的に絡めるが、京介に全て持っていかれる。

「…ふっ…ん…ぁ…」

鼻にかかったような甘い声が吐息と共に漏れる。

くちゅり、と交わる互いの唾液が圭志の口端から落ちた。

「…っ…んん…っ、はぁ…」

ソッと唇を離した京介と圭志の間を銀の糸が繋いだ。

「圭志」

圭志の口端から落ちる唾液を舐めとり、京介は圭志を見つめる。

「…っ」

いつもと違う顔を見せる京介に圭志は顔が赤くなるのを止められない。

ドクドクと脈打つ鼓動に息が詰まりそうだ。

「もうお前が独りでいる必要はねぇ」

手を伸ばせば俺がいる。それを忘れるな。

「…っ」

京介の首に回した腕に思わず力が入った。

圭志は泣きそうに表情を歪めたが泣かなかった。

「お前を泣かしていいのも俺だけだ」

それを見て、京介は圭志の耳に唇を寄せてフッと偉そうに笑って言った。

「馬鹿な事言ってんじゃねぇ。誰が泣くか…」

ぼやけた視界で京介が笑ったのが見えた。

そして、耐えきれず一筋溢れ落ちた涙は京介に掬われた。


京介の指がシャツのボタンにかかると、圭志はその手を掴んで制止する。

「まさかヤるつもりじゃねぇよな?」

しおらしさはなくなり、そわそわと落ち着かない心を持て余しながらも何とか平静を取り戻した圭志は自分を組み敷く京介を見上げる。

「やっと手に入れたんだ。抱いて何が悪い?」

当然止められた京介の機嫌は悪くなる。

「馬鹿か。一応保健室だぞここ。それに俺は怪我人だ」

それが?とさして気にした様子も見せない京介は圭志に腕を掴まれたまま言い返した。

「悪いが止めねぇぜ。今、お前が欲しい」

「なっ…」

ストレートな物言いに、圭志は言葉を詰まらせる。

掴まれた手の力が緩んだその隙に京介はシャツのボタンを外してしまった。

そして、肌に残る暴行の後を目にして京介は眉を寄せた。

「アイツ等…」

怒りを滲ませた低い声に、場違いにも圭志は嬉しく思ってしまう。

(って、流されるんじゃねぇ俺)

「待てよ、京介」

肌の上を滑る京介の手に、身を捩って圭志は抵抗する。

「何だ?」

二度目の制止に京介は苛立ちをみせて、ジロリと圭志を見下ろした。その瞳に欲情の色が見える。

「―っ!?」

鋭い眼差しに射抜かれ、熱を含むその瞳にぞくりと背が震えた。

(これは止められない―)

心の何処かで圭志自身望んでいたのかもしれない。

口を開こうとして結局圭志は口を閉じた。








だが、それは思わぬところから邪魔が入って中断を余儀無くされた。

「神城くん。黒月くんが起きたなら部屋まで送っていってあげてよ。もう戸締まりしなきゃいけない時間だから」

圭志はカーテンの外からかけられた声にホッとし、小さく舌打ちした京介に苦笑した。

「京介」

不機嫌そうに圭志の上から退こうとした京介の腕を掴み、圭志は上半身を起こして自分の方へ引き寄せた。

「んっ…」

自ら軽い触れるだけのキスを交わして圭志は離れる。

「お前…」

驚いた顔をする京介にいつもの調子を取り戻した圭志はニヤリと口端を吊り上げた。

「今日はこれで我慢しろ。俺からのキスは貴重だぜ」

圭志の左手が京介の頬に触れ、挑発するようにその唇を親指の腹でなぞった。

「くっ、はははっ。いいぜ」

頬に添えられたその手をぎゅっと掴み、京介は笑う。

「お前からしたくなるようにしてやる」

「俺はそんな簡単に落ちねぇぜ」

想いを交わしても尚、変わらないやり取りを繰り返す。

互いに一歩も譲らない、恋の駆け引きが始まった。





第三章完

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