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次に圭志が目を覚ました時、宗太の言った通り側には京介がいた。

「起きたのか?」

しかも座っていた椅子から立ち上がり、顔を覗き込んできた。

「…っ」

一瞬、息を詰めた圭志はゆっくり息を吐くと口を開いた。

「何でお前がいるんだ?明達は?」

「さっきまで居たが帰らせた。もう夕飯の時間だしな」

そんなに寝ていたのかと圭志は痛む身体を起こそうとした、が。

「退けよ京介」

上から見下ろしてくる京介が邪魔で圭志は動けなかった。

「おい!聞いてんのか?」

自分に向けられる強い視線に京介は口端を吊り上げた。

「聞いてるぜ」

そう言いながら京介はまったく逆の行動をとる。

右手を圭志の頭の横に置き、左手で圭志の頬に触れる。

「…っ、何すんだよ」

パシッと頬に触れてきた手を払い、圭志は京介を睨み付ける。

「もういいだろ?」

「何がだよ」

至近距離で視線が絡まる。

京介は圭志と視線を合わせたままゆっくり言葉を紡いだ。

「俺が好きだと言え」

「―!?な、に言ってんだよ。俺はお前なんか好きじゃねぇ」

どくりと跳ねた鼓動に圭志は反射的にそう返していた。

「嫌いでもないだろ」

そう言って自信満々に笑う京介に、圭志の鼓動が早まる。

「…っ。勝手に言ってろ」

ただ圭志は顔が赤くならないよう京介から視線を反らした。


振り払った京介の左手が、ワイシャツにかかり襟元を広げられる。

「倉庫で俺がお前に、アイツ等がいなくなったら俺を側に置くかって聞いたよな。そしたら、お前はこう答えた」

<それは…っ、京が俺の側にずっといてくれるなら考えてもいい―>

ビクリと肩を揺らした圭志の首筋に京介は唇を寄せて、赤い華を咲かせる。

「それはっ…」

「あれがお前の本音だ。圭、もうお前が恐れる事は何もねぇ」

お前を傷付ける人間はもういない。周りを気にする事もない。

顔を上げた京介は左手で優しく圭志の頬に触れる。

「俺を好きだと言えば守ってやる」

その言葉に、圭志は顔に熱が集まるのを感じつつ反らしていた視線を京介に戻した。

「俺は守られるほど弱くねぇ」

そう言われて素直に頷く圭志ではない。圭志にだって譲れないものはある。

「俺を、そこらにいる奴と一緒にするな」

守られるだけの存在なんて冗談じゃない。俺はお前と対等でありたい。

睨み付けるような眼差しに、京介はふっと笑みを溢して、圭志の頬に添えていた指先を目元に這わせた。

「一緒にしてるわけじゃねぇ。お前だけだぜ、俺が守りたいと思うのは」

それでも、

「俺は守られたくなんかない」

俺はそんなこと望まない。

一歩も引かなそうな圭志に京介は話の方向を変える。

「俺が好きなのは認めるんだな?」

「…どうしてそうなる」

いきなりの話題転換に圭志は眉を寄せた。

「俺にずっと側にいて欲しいんだろ?」

「そんな事言ってねぇ」

「今更なかったことにする気か?」

瞳を細め、ジロリと見下ろす京介に圭志も負けじと返す。

「俺は考えてやるって言ったんだ」

屁理屈を捏ねる圭志に京介は言う。

「そんなもの考えるまでもねぇだろ。俺はお前を手放す気はねぇ。…お前は俺だけ見てろ」

圭志の目元にキスを落とし、視線を絡ませ、京介は続けて言った。

「素直に俺のモノになれ圭志」

熱を含むその鋭い眼差しに圭志はざわざわと落ち着かなくなる。

心が騒ぐ。

その手をとっていいのか?本当に?

駄目だ。止めろ。

「俺はっ、…誰のモノにもならない」

相反する気持ちが圭志の中でぶつかり合う。

きっと顔は赤くなっている。でも、圭志には気にしている余裕などなかった。

京介から視線が反らせない。もう、逃げられない。心のどこかでそう思った。

そして、

「圭志、……好きだ」

低い、熱を伴った声が圭志の心を震わせた。

戒めていた鎖が壊れる。

もう駄目だ。誤魔化せない…。

気付けば圭志は手を伸ばしていた。

京介の首に腕を回し、圭志は今出来る精一杯の答えを返してやる。

俺は誰のモノにもならない。俺は俺のモノ。でも、

「お前が俺のモノになるなら考えてやる」

一瞬、驚いたように目を見開いた京介はふっと口端を吊り上げて圭志の唇を塞いだ。



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