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そこには葵を追い詰め、選択させた弥彦の口からこれまでの計画が語られていた。

声が止むと、レコーダーはノイズを残して止まった。

「それが証拠だとでも?笑わせる。俺を嵌めるためにソイツが作った可能性もある」

弥彦はまったく動じなかった。その上、

「大体、生徒会ってのは盗聴もするのか?最低だな」

淡々と京介を非難した。

「はっ、最低なのはどっちだか」

弥彦と睨み合う京介に夏樹が歩み寄り、その手に何かを渡す。

「それは葵様の!」

京介の手の中で薄いブルーの携帯電話が鈍く光りを返す。

剛史の声に無表情だった弥彦の顔が僅かばかり動いた。

「さっきの会話が嘘かどうか確認するか?履歴はきちんと残ってるぜ」

リダイヤルに指をかけ、京介は押した。

すると、目の前にいる弥彦のポケットからゆったりとしたメロディが流れ出した。

弥彦は耳障りな音を止めるために自ら携帯電話を取り出すと電源ごと落とし、葵に冷ややかな眼差しを向けた。

「やはり先に相馬を切り捨てるべきだったか」

その声音は変わらず淡々としたものだった。

剛史と武史の表情が険しいものに変わる。

「葵様の事をそんな風に考えてたのか!」

「使えないものは切り捨てる。当然の事だ」

慌てもせず、否定も弁解もしない弥彦はつまらなそうに言った。

「ソイツ等がどうなろうと構わねぇがな常盤、お前には罪を償ってもらうぜ」

圭志が俺に弱味を見せるぐらい精神的にも身体的にもまいってるんだ。退学だけじゃ生温い。

京介の台詞にもやはり弥彦は表情一つ変えなかった。

「好きにすればいい。今回はとんだとばっちりを受けた」

弥彦にとってそれら全てが関心のない、どうでもいい事だった。

「…な、んだよソレっ!黒月はっ」

ソファーに座り、耳を傾けていた明は弥彦の淡々とした物言いに拳を握り、立ち上がる。

「途中までは面白いゲームだったよ」

そして、うっすらと笑みを掃いた弥彦に明の怒りが頂点に達した。

「そんな事の為に黒月は傷つけられたのか!ふざけるなよ!黒月はお前等の玩具なんかじゃない!」

顔色を蒼く染めながらも明は今にも弥彦に殴りかからんと怒鳴った。

「ストップ、明。落ち着け」

それを静が明の肩を押さえて止める。

「退けよ静!だってアイツ等が黒月を…」

「京介に言われただろ。お前は黒月の側にいてやればいい。後は京介がなんとかするって」

もしどうしても、って言うなら代わりに俺がやってやるけどどうする?

と、静は明の顔を覗き込んだ。

「―っ。そ、その前にち、近い!!離れろっ」

一瞬にして明は顔を真っ赤にして元に戻った。









京介は静と宗太それぞれに視線をやり、二人がそれに頷いたのを確認するとすぐ常盤に視線を戻した。

「ほら明、ここは京介に任して黒月の様子見て来いよ」

「う…ん?何か俺を追い出そうとしてないか…?」

「気のせいだろ。それより今、黒月の側には誰もいないんだぜ?お前がいかなくてどうする」

静の誘導に、明は疑いもせず納得した。

(この後の事はお前は知らなくていい)

宗太も皐月の手を取り、静と同じ様に皐月を促す。

「此処にいてももう俺達が出来ることはありませんから、行きましょうか皐月」

「はい」

宗太が明と皐月を連れて部屋を出て行った。

「ふ〜ん、優しいねぇ。新見と流に汚い現場は見せたくない、か」

観月はにこにこと机に肘をついて言った。

「明にはあのままでいて欲しいんでね」

カチャリと眼鏡を押し上げた静が観月を見てそう返した。

「これからここで行われる行為はあくまで風紀を乱した生徒に対する処罰だ」

正当なる理由を口にしてこれから行われる行為を誰が見ても正当なものとする。

その上で、京介は言った。

「そう心に留めておけ。生徒会長、風紀委員長の権限により常盤 弥彦への処分を行う」

ゲームと称して圭志に深い傷を負わせた目の前の人間を、京介は到底許せなかった。

その身を持って償え、常盤。

そして、ソレは静かに執行された―。



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