04


男と別れた後、圭志は元の道に戻り、言われた通りに進んで今理事長室前まで来ていた。

ここに来るまで圭志は、心の中で先程会った生徒会長と名乗った男を罵倒していた。

本来なら即殴るなりそれなりの対処をしている所だが、編入早々問題を起こすのは良くないと理性が勝手にブレーキをかけたのだ。

「あ、そういや結局アイツの名前聞いてねぇや。…まっ、いっか」

理事長室の扉をノックしながら一人ポツリと呟く。

すぐさま部屋の中から入れ、と返され圭志は意識を目の前の扉に戻すと、さっさと扉を開けて中に入って行った。

中にはスーツをぴしっと着こなした細身の青年が、部屋の奥にある椅子に座っていた。

青年は入って来た圭志を見るとニッコリ微笑んで椅子から立ち上がる。

「ようこそ九琉学園へ、圭志くん」

圭志の側へ近付くと、圭志を応接用のソファに促し、自分もその正面に座る。

「久しぶり、竜哉(リュウヤ)叔父さん」

「そうだな、かれこれ2年振りか…。圭志くんが高校進学の時、俺のとこに来ないかって誘って以来だから」

竜哉はその当時を振り返って懐かしそうに言った。


「あ、そうだ。学園内にいる時は俺のこと理事長、もしくは竜哉さんと呼べ。間違っても叔父さんとか呼ぶなよ」

昔を振り返っていたと思ったら、急に真面目な顔をして圭志に指を突き付けて言ってきた。

このあっさりと話を切り捨てる所は叔父だけあって先程の圭志と似ていた。

「別にいいけど何で?」

竜哉は腕を下ろして胸の前で組むと、何とも言えない複雑な表情をして答えた。

「あ〜、確に圭志くんから見たら俺は叔父さんにあたるワケだが…、俺まだ27なんだよ?その辺を察してくれ」

自分から聞いたくせに圭志は特に返事を返すでもなく、ふぅんと受け流した。

「反論してきたアイツよりマシか…」

ため息混じりにそう小さく呟くと竜哉は学園の説明をするべく圭志にパンフレットを渡した。

「とりあえず重要そうな事だけ教えておくよ。他は面倒だからパンフレットを見て。まず、学内で一番権力を持っているのは俺の次に生徒会。面倒事が嫌なら近付かない事。次に風紀。でも、今の所風紀のメンバーは副委員長しかわかってないから何とも言えないな。全てを知っているのは生徒会の連中だけで…」

「何でそんな事になってんだ?生徒から文句でたりしねぇの?」

圭志はパラパラとパンフレットを捲りながら口を挟む。


「風紀はその名の通り学内での問題を片付けてもらっていたんだが、数年前に事件が起きてな。その当時の風紀の取り締まりが厳しかったらしく、その事に反発した生徒数名が風紀メンバーを片っ端からボコボコにしちゃって。その後、委員長と副委員長以外のメンバーが報復を恐れて辞めた。と、まぁこんな事件以来メンバーを守るために公表していないというワケだ。今じゃそれにプラスして、顔が知られて無い分表に出てこないような問題も掴みやすいってこともあってそのままになっている」

竜哉は肩を竦めて一度言葉を切り、それからともう一つの質問について口を開く。

「メンバーの公表について生徒から文句が出たことは無い。なぜなら、風紀のメンバーは生徒会ひいては生徒会長直々に指名されるからだ。しかもその会長は全校投票で決まる。つまり、風紀について意見する事は会長に歯向かう=全校生徒を敵に回す事になる」

「なるほどね。そうなりゃ誰も何も言えなくなるわな。さすが金持ち学校。変わってんな」

圭志は興味無さげにそう溢すと続きを促す。

「それから、生徒会の周りには親衛隊という名のファンクラブがある。特に生徒会長のトコのは過激で、会長と会話を交そうものなら次の日制裁を加えられるなんて事もある。まぁ、圭志くんのその容姿なら問題ないと思うけど…。逆に親衛隊が出来そうだな」

竜哉は正面のソファに足を組んで座っている圭志を改めて上から下まで眺めて言った。

その視線に圭志はフッ、と笑うと手にしていたパンフレットを畳み、テーブルの上に置く。

「親衛隊ね…。とことん変な学校だな。でもま、退屈しなくてすみそうだぜ」

圭志の口端が楽しそうに吊り上がり、瞳は獲物を狙う獰猛な獣の様に鋭く細められる。

竜哉は自分に向けられたワケでもないのに、その視線に捕えられた様に動けなかった。

竜哉が圭志から視線を外せないでいると、圭志は一度目を閉じ、その視線を和らげていつもの表情に戻す。

それにより、知らずのうちに入っていた肩の力が抜け、竜哉はソファの背に脱力する様に寄りかかった。

「はぁ〜、俺の寿命を縮める気か…?まったく、学内であんまり問題を起こさないでくれよ」

竜哉はそう言ってスーツのポケットからブルーのカードを取り出すと圭志に向かって投げる。

圭志がカードをキャッチしたのを見届けるとカードの説明を始める。

「そのカードは学内で身分証明になる。寮にある自分の部屋に入る時に必ずそれを通して。鍵の代わりになってるから。それから、クレジット機能もついてるから学食や学内の店で精算する時に使って。一応、現金でも払えるけどその方が楽だから」

圭志は渡されたブルーのカードを繁々と見つめて感心した様に言う。

「このカード一枚でそこまで出来んのか」

竜哉は続けてポケットからシルバーのカードを取り出す。

「これはブルーの一般生徒用と違って、生徒会や風紀用のカード。主に一般生徒立ち入り禁止の場所に入れるようになっている。これは、可愛い甥である圭志くんを信用して渡しておく」

「可愛いは余計だ。でも、有り難く貰っとく」

シルバーのカードを遠慮なく受け取り、ブルーのカードと一緒にポケットにしまう。

竜哉は圭志の言葉に苦笑しながら、腕時計で時間を確認すると立ち上がる。

「さて、説明はこれくらいかな。この後は寮に行って荷物の整理をするといい。圭志くんは、編入試験受けてないけど結果は分かりきってるから首席部屋。ちなみに一人部屋だよ。あと、首席には授業免除とか色々あるからパンフレットを見ておいて。で、部屋の番号はブルーのカードに書いてあるけど、一応寮管室に行って挨拶してきて。制服の方は部屋に届いてるから、明日はそれを着て職員室に行くこと。クラスは2-Sな」

圭志は竜哉の話を聞き終わると渡されたパンフレットを持って立ち上がる。

「了解。んじゃ、またな竜哉さん」

圭志は右手をひらひらと振って理事長室を出て行った。


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