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そして保健委員長が連れて来られた場所は、滅多な事がない限り入れない、校舎内最上階に設置されている風紀室だった。

このフロアには風紀室の他に生徒会室、大会議室といった風紀と生徒会が主に使用する部屋が幾つか存在する。

迷うことなく風紀室の扉に手をかけた京介は躊躇い無く開く。

ガチャリと開いた扉の向こうには、倉庫で捕まえた生徒達が床に座らせられ、風紀委員の腕章を付けた生徒達がそのすぐ横にズラリと立っていた。

「お前はアイツを見てやれ」

ソファーにぐったりと身を預けている一夜に視線をやり、京介は保健委員長にそう指示を出した。

保健委員長が京介から離れると、部屋の中を落ち着かなさげにうろうろしていた明が京介に近付いて来る。

「なぁ、神城。一体何なんだよこれ」

明の他にも風紀委員のメンバーである透、夏樹、生徒会メンバーの宗太、皐月。

無関係の観月や湊までそこには居た。

観月の姿を目に止めると京介は嫌な顔をした。

「やっほう、神城。君がどんな采配を振るうか見に来たよ」

「俺は観月の御守りだ。気にするな」

空席の風紀委員長席に座り、観月は京介にひらひらと手を振ってみせる。その横で湊が肩を竦めた。

傍観者は放っておき、京介は明に視線を戻す。

「で、確認は終わったか?」

「あぁ、うん」

はい、と言って明は机の上に置いてあったファイルを京介に手渡した。

そこには風紀が作成した各親衛隊のリストと要注意人物が記されている。

「言われた通り、そこにいる人全員にチェックを入れといたけどどうするんだ?」

それぞれの名前に赤いラインが引かれていた。

「すぐに分かる」

ぱらぱらとファイルを捲って見た京介はそれだけ言うと宗太を呼ぶ。

「まったく、こういうことは前もって言って下さいよ。何とか間に合ったから良かったものの」

京介の手に普通の紙より上質で厚さもある書類が渡された。

「無理を通して頂いてきたので事務員の方々には後で生徒会長名で御礼をしておいて下さいよ」

宗太はそう言って皐月の元へ戻る。

「でも、たった一人の為にここまでする会長って格好良いですよね。僕、憧れます」

尊敬の眼差しを京介に向ける皐月の頭に宗太は手をやり、苦笑した。

「やり方には多少問題有りですけど、そうかも知れませんね。私も皐月の為なら何でもしますよ」

「そ、それはっ。嬉しいけど困りますっ!!」

ぼんと顔を赤く染めて皐月は小さく呟いた。


京介は明と宗太それぞれから受け取ったファイルと書類を手に、後ろ手に拘束され床に座らされている親衛隊、不良の面々の前に立った。

「京介様!僕達は…」

「悪いのはアイツ等じゃないか!」

親衛隊は次々に声を上げる。その中で既に京介の手により希望を絶たれている剛史と武史は項垂れ言葉を発しない。

隊長である岬でさえ己の不利に気付いているのか、側に控える雅也共々口をつぐんでいた。

「お前等、まだ分かってねぇようだな」

その場に京介の怒りに満ちた低い声が落ちる。

京介は宗太から受け取った書類を一枚手にとり、騒ぐ親衛隊の面々に突き付けた。

「お前等全員退学処分だって言った筈だぜ。くだらねぇ言い訳なんか誰も聞いてねぇ」

「そんなっ!?」

「嘘でしょ、何で僕が!?」

突き付けられた退学通知に顔を蒼くさせ親衛隊は悲鳴を上げる。

「そんな権限たかが生徒会長に有るわけねぇだろ!」

手足を拘束されている不良が苦し紛れに叫んだ。

「馬鹿が、良く見ろ」

京介はその不良の名前の書かれている書類を抜き取ると、眼前に突き付けてやる。

その紙の最後には理事長である竜哉の印がきちんと押されていた。

「なっ!?」

「あの野郎もたまには役に立つもんだな」

印を貰いに行った宗太は、快く竜哉に印を押して貰えた。


九琉学園に通う生徒のほとんどは財閥の跡取りや金持ちの家の子息である。

その子息が退学など世間体を気にする親にとって醜聞にしかならなかった。

もちろん京介はそれを踏まえた上での処分である。

「風紀、コイツ等を寮へ連れてって荷物を纏めさせろ」

興味が失せた様に京介は青ざめる親衛隊、不良達から視線を外し、周りに立つ風紀へと向けた。

それに頷き、風紀委員が動き出す。

「甲斐と敷島、相馬ならび篠原兄弟はいい」

ぞろぞろと風紀に連れられ親衛隊達が出て行くと、張り詰めていた空気が緩み、明はようやく口を開く事が出来た。

「はぁ…、全員退学って四十名近くもいるのを?いくら神城でもやりすぎじゃないか?」

詳しく知らない明は何が何だか分からない。

「どこがだ?明、これを見てもまだそんな事が言えるか?」

京介は倉庫内で撮られた写真を一枚明に渡した。

そこには親衛隊による、圭志への過剰なまでの暴力行為が納められていた。

「―っ何だよこれっ!?神城、黒月は!?今どこに!?」

明は顔色を真っ青にして、写真を握り締めると京介に詰め寄った。

「安心しろ。アイツは今保健室で手当てを受けて眠ってる」

「そ、っか…。良かっ、た…」

明はそれを聞いて安堵し泣きそうな表情を浮かべた。


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