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ぐったりと京介に凭れかかったまま意識を落とした圭志。

「その言葉忘れんじゃねぇぞ」

圭志の前髪を掻き上げ、唇を落とすと京介は圭志の膝裏と背に腕を回し立ち上がった。

身長があるわりには軽い。

「あっ、会長俺達が運びましょうか?」

それを見た風紀委員が声をかけてくる。

「いやいい。俺が運ぶ。お前等はそれが終わったら先に風紀室に行ってろ」

「「はいっ」」

京介は改めて倉庫内の惨状に目をやり、腕の中に在る圭志に視線を落とした。

ズボンは血で汚れ、貸したブレザーの下にあるワイシャツは灰色になりつつある。

その間からちらりと覗く肌には痣が見え隠れしていた。

「アイツ等ただじゃおかねぇ。俺のモンに手ぇ出した罪は重いってことを思い知らせてやる」

京介の指示で捕らえた生徒は全員風紀室に連行されていた。

もうこの場にいないその面々を思い浮かべ京介は凶悪な笑みを浮かべた。

「っと、その前に保健室だな」

京介は圭志を横抱きにしたまま、倉庫を出ると校舎の奥に設置されている保健室を目指した。

「ねぇ、あれ神城会長じゃない」

「黒月!?怪我してんのか?一体誰が…」

校舎内に入れば、早く終わった委員会の生徒達が京介に気付き、注目し始める。

そして、京介に抱き上げられている圭志に視線をやり驚きの声を上げていく。

それら全てを無視した京介は、会議中と札の掲げられている保健室の札も無視して、圭志を横抱きにしたままドアを開けた。

「ちょっと今会議ちゅ―…」

保健委員会の生徒であろう黒髪のひょろっとした青年が開いたドアに振り返り、言葉を途切れさせた。

「かっ、会長!?」

他のメンバーも揃って驚いた様に入ってきた京介を見た。

「おい、保健医」

京介は他の生徒は眼中にないらしく、保健医を見つけると言った。

保健医もすぐ京介に抱き上げられている圭志に視線を走らせると頷いた。

「神城くん、そこのベッド空いてるからそこに下ろして」

ざわざわと騒ぐ保健委員達の横を通り抜け、京介は圭志をベッドに下ろした。

保健医は圭志のベッドに近付くと外から見えないようカーテンを引き、京介に話を聞きながら圭志の手当てに入る。

「これはどういうことかな神城くん?」

「見ての通りだ」

「そういう事を聞いてるんじゃない。彼、黒月くんはついこの間も怪我をして保健室に来た」

保健医は厳しい表情を京介に向ける。

「こんなに怪我をして、今度ばかりは見逃せないよ」

強い視線を向けてくる保健医を京介は真っ向から見返す。

「フン、俺だって逃すつもりはねぇ。犯人はもう捕らえてある」

「それならいいけど」

保健医はあっさりと肩から力を抜くと手当てを再開させた。

手当ての為、応急処置の施されている右足に保健医が触れると圭志はうっ、と声を漏らしてうっすら瞼を上げた。

「ここは…」

「保健室だ。手当てしてるだけだからお前は何も考えずに寝てろ」

開けた視界を掌で遮り、京介は言う。

「京介…?」

「お前が心配する事何てもう何もねぇよ」

圭志は疲れからか、そう促されたからか分からないが再びゆっくりと瞼を落とした。

「へぇ、意外だね。黒月くんってあまり人に気を許さないタイプだと思ってたけど」

その様子じゃそうでもなかったか、とテキパキと手を動かしながら保健医が口を開く。

「おい保健医。圭志を暫くここで休ませとくが間違っても手ぇ出すなよ」

京介のあからさまな牽制に保健医は目を瞬かせ次に苦笑を浮かべた。

「出さないよ。ここには誰も入らないよう言っておくから安心して」

「ならいいがな。後でまた来る」

京介は眠っている圭志の頬に触れて、そう告げるとカーテンを引いて出て行った。

外には保健委員達が何事かとカーテンで仕切られた空間を見ていた。

そこから出てきた京介に視線が集まる。

「保健委員か…。ちょうど良い。委員長はどいつだ?」

「はい、僕ですけど」

黒髪のひょろっとした生徒が手を上げた。

「救急セット一式持ってついて来い」

「はぁ…?」

「もしかしたら怪我人がでるかも知れねぇからな」

保健委員長は首を傾げながらも言われた通りに救急セット一式を持って京介について行った。



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