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―ちょっと力を貸してくれないか?手伝ってくれれば近々ある大きなスクープを撮らせてあげるよ?

部室のソファーに座った客人が愉しそうにそう言った。

―佐久間副会長。それは我々新聞部への命令ですか?それなら断ります。いくら生徒会といえども我々新聞部には取材の自由と公平を保つ義務があります。

新聞部部長は毅然と答えた。

―それでいい。何も生徒会側につけと言ってるわけじゃない。京介は中立の立場で物事を捉えられる新聞部を評価して、協力を仰ぎたいと言っていた。

新聞部部長は押し黙り、考え込むと顔を上げた。

―俺達に何をして欲しいのですか?

―何、簡単な事だよ。いつものように取材してくれればいい。それから数名、腕の良いカメラマンを貸して欲しい。

―記事の内容は?

―先の通り。内容に関して俺達は口を挟まない。公平を保つ新聞部に一任する。

真剣な眼差しで頷いた静に部長も真剣な表情を浮かべた。

―それが生徒会の不利になる内容だったとしても?

―構わない。京介は全て納得済みだ。

京介に連れられ風紀と共に倉庫に乗り込んだ新聞部部長は全てを撮り終えると部員に声をかけた。

「お前達は先に部室へ帰って記事に取りかかれ」

「「はい」」

そして、最後に京介と圭志、対峙するように立つ葵、篠原兄弟をファインダーに納めた。










「あぁ、それと。ソイツの目が覚めた頃には世界は地獄に変わってるかもしれねぇな」

クッと京介は気を失っている葵を見て口端を吊り上げた。

「何だと?」

表情を険しくした剛史と武史に京介は当然の報いだと続けた。

「相馬 葵、本名は黒月 葵だったか?」

(何で京介がソレを知ってるんだ?)

母方の性を名乗っている葵。圭志は京介には何一つ話していない。

それなのに、京介は更なる衝撃の言葉を口にした。

「ソイツはもう黒月から縁を切られたぜ。家ごと、成瀬の時と同じ様にな」

「「!?」」

「京介!?縁を切られたって、何でお前がそんな事知ってるんだ!それに成瀬の件だって…俺は誰にも言ってない」

身体中を走る痛みを無視し、立ち上がった圭志は京介に詰め寄った。

それでも京介は余裕の表情を崩さず、どこか焦ったように言う圭志に不敵な笑みさえ浮かべてみせた。

「お前の事で俺が知らねぇ事はねぇ」

「なっ―!?」

信じられねぇと目を見開いて動きを止めた圭志の頬に京介はソッと指を這わせる。

「俺を誰だと思ってる?」

ニィと自信満々に口端を吊り上げた京介が間近で笑う。

瞳を覗き込まれ、圭志の視界一杯に輪郭のぼやけた京介の顔が写った。

「―っ!?」

ゆっくりと唇を重ねられ、離れていく。

「鉄の味がするな…。続きは後でしてやるから待ってろ」

口端についていた血を舐めとられ、カッと頭に血を昇らせた圭志は条件反射で京介から距離をとった。

「だ、誰がてめぇなんかとするかっ!」


今の光景を目の前に、圭志と京介は親密な関係にあると勘違いした剛史は悔しそうに唇を噛んだ。

「始めからグルだったんですね?僕達を踊らせてさぞ愉しかった事でしょう?」

睨み付ける剛史に圭志は誰が、と反論しようとしたが京介に手で制される。

「踊らされる側に回った気分はどうだ?」

「最悪ですよ」

憎々しげに吐き捨てた剛史の横で武史が口を開いた。

「何故、無関係の会長が葵様の家と黒月家の縁を切れる?」

衝撃的な内容だった為に考えず感情で動いてしまった剛史も武史に言われて気付く。

「そうだ。もしやハッタリ…」

「はっ、残念だが事実だぜ」

仄かに差した希望の光を京介は即否定した。

「それは俺も聞きてぇな」

どんな手を使ったのか、圭志は京介に疑わしそうな眼差しを向けた。

「そう難しい事じゃねぇ。お前等の所行を黒月の上の奴等に教えてやっただけだ」

黒月に不利になる前に切り捨てちまえ、ってな。

「京介、お前…。俺ん家を潰す気か?」

何もなかったから良いようなものの。京介がそこまでしていたとは。

「まさか。まぁ、そうなったらお前は俺が貰ってやるから安心しろ」

なんだか頭まで痛くなってきやがった。

ため息を吐いた圭志に京介は続ける。

「でもまぁ、お前の親父は結構おもしれぇ奴だったな。話は解るし…」

「親父と話したのか!?」

「あぁ、お前の事頼むって言われたぜ」

(あのクソ親父〜、何を頼んでるんだっ!)

圭志の脳裏に愉快そうに京介と会話を交わす父親の姿が糸も簡単に思い浮かべられた。



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