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蹴りを喰らった葵は呆気なくドサリと倒れ伏し、力任せに蹴りを放った一夜もその後すぐその場に崩れ落ちた。

シンと誰もが動きを止め、声を発せず、静寂が辺りを包む。

「「――葵様!!」」

その静寂を篠原兄弟が破り、音の戻った倉庫内はみるみる内にパニックに陥った。

不良達は痛みに体を折り、親衛隊は倉庫から逃げようと我先にと扉に殺到した。

「開かないっ!?」

だが、倉庫には鍵がかけられており、剛史の持つカードキーがなければ開けられない、……筈であった。

―ギィィィ……

それが、何の前触れもなくいきなり外側から開けられた。

「よぉ、お前等。随分おもしれぇ事してんじゃねぇか」

その姿、その声に、倉庫内にいた誰もが驚き声を失った。

「…きょう…すけ…?」

この場に居るはずのない人の姿に圭志は呆然と呟く。

「…っ、京介様!アイツ等が僕達を!!」

「そうです。僕達…!」

京介のすぐ側にいた親衛隊の少年達が助かったとばかりに瞳を潤ませ、京介に訴える。

「そうか」

少年達の言葉に京介は倉庫内を見渡し、頷いた。

そして、自分の背後を振り返り告げた。

「倉庫内にいる奴等全員を拘束しろ。抵抗するようなら相応の対応をして構わねぇ。一人も逃がすんじゃねぇぞ」

「「「はいっ」」」

京介の後ろから風紀の腕章を腕につけた十数名の生徒と、新聞部の腕章を付けた三人の生徒が倉庫内に雪崩れ込んだ。


そこから風紀の行動は素早かった。

「京介様!?何で僕達が…!」

信じられないと驚愕した親衛隊の少年達の手を後ろ手にパチリとプラスチックの様な拘束具で拘束する。

「ちょっと僕に触らないでよっ!」

抵抗した少年には容赦なく風紀の制裁が入り、拘束される。

転がっていた不良達も手足に拘束具を填められていく。

京介はボロボロになってる圭志、倒れ込んでる一夜、葵、篠原兄弟と順に視線を投げ、目の前で騒ぐ親衛隊の少年に戻した。

口元に酷薄な笑みを浮かべ、言う。

「何で、だと?これだけの事をしておいてよくそんな口が利けるな」

「そんなっ、これはアイツ等が勝手に…!」

「僕達はただ巻き込まれただけで…!」

少年達は全てを葵と不良達のせいにしようと口を合わせる。

「黙れ。そう言ってお前達は今まで何をしてきた?俺が知らねぇとでも思ったか」

京介は倉庫内の様子をカメラに納めていた新聞部の一人を呼び寄せると、厚さ三センチはある正方形の紙の束を受けとる。

そしてそれを親衛隊に向けてばら蒔いた。

「――っ!?」

そこには親衛隊がこれまで行ってきた数々の悪行が写っていた。

少年達は顔を真っ青にさせ、写真を見つめて震える。

「でもっ、僕達は京介様の為に―」

その中で顔を青くしながらも気丈に声を上げた少年がいた。

「俺の為?いつ俺がそんなことを頼んだ?それに俺はな、俺のモノに手ぇ出されるのが一番嫌いなんだよ」

京介はそう言って、勘違いしている少年を睨み付け、最後に吐き捨てた。

「親衛隊は解散、お前等は全員退学処分だ」

俺のモノに手ぇ出したんだ、当然だろ…?


圭志は風紀に腕に巻かれたネクタイをとってもらいながら、親衛隊の相手をしている京介をぼんやり眺めていた。

(何で…お前がいるんだよ…)

「黒月、足の手当てしたいから座ってくれないか?」

ネクタイを外してくれた風紀委員にそう言われ、圭志は力が抜けたように座り込んだ。

そこから少し離れた所では一夜が別の風紀委員に手当てを受けていた。

「これは酷いな…」

右足に応急処置を施され、後で保険医に見せるよう言われた。

そう言って立ち上がろうとした風紀委員を圭志は引き留めた。

「なぁ、何でお前等がここにいるんだ?京介の奴だって…」

「それは直接会長に聞いた方がいい。俺達はただ会長の命令で動いてるだけだから。ほら、こっちに来るよ」

離れていく風紀委員を追って顔を上げれば京介がこちらに向かってくるところだった。

視界の端で岬と雅也が風紀に拘束されていく。

圭志は座り込んだまま京介が近付いて来るのを待った。

「………京介」

京介は圭志の目の前まで来ると立ち止まり、自分のブレザーを脱いで圭志の頭の上に落とした。

「いつまでそんな格好してるつもりだ?俺は別にいいけどな」

言われて圭志は自分の格好を見下ろす。

ワイシャツのボタンは全て外され、グシャグシャになっており惜し気もなく肌を空気に晒していた。

「お前に見られるなんて今更だろ…」

そう言いながらも圭志は頭に被せられたブレザーを手に取り、痛みと戦いながら何とか羽織った。


「で、どうして京介がここにいるんだよ?委員会じゃなかったのか?」

そこでやっと圭志は聞きたいことを口にした。

「委員会中だぜ?風紀の取り締まりのな」

「あ?お前生徒会長だろ。風紀は関係ねぇじゃねぇか」

葵が捕まった事で篠原兄弟も大人しく風紀に連行されていく。

「風紀委員長がいない間は会長の俺が兼任してんだよ。まぁ、いずれお前の役目になるがな」

「…勝手に言ってろ」

京介はフッと笑って、座り込んでいる圭志の頭をクシャリと撫でると葵を連行していく風紀に待ったをかけた。

「っ、何すんだよ!」

「そいつ等は俺がやる」

気絶したままの葵と篠原兄弟が京介と圭志の前まで連れてこられる。

「お前か、葵様の買収した新聞部を裏切らせたのは」

剛史は京介を睨み付けて言った。

そうだ。新聞部はたしか葵側の人間だったはずだ。

圭志も思わず京介を見上げた。

「裏切らせたも何もねぇ。新聞部は始めから買収なんかされちゃいねぇ。アイツ等が欲しいのは金よりスクープだからな」

多少の取引はさせてもらったがな、と京介は嘯いた。


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