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薄汚れた圭志のブレザーに男の手がかかる。

「マジでヤっちまっていいんだな?」

ボタンを外しながら男達が葵に確認した。

「いいよ」

それに悠然と頷いた葵に一夜が喰ってかかる。

「止めろっ!」

バタバタと暴れて剛史の拘束から逃れようと足掻くが殴られた腹が鈍く痛みを返し、力が入らない。

その間にも圭志はブレザーを脱がされ、ネクタイをほどかれる。

ワイシャツに指がかかり、圭志は痺れと痛みに耐えながら体を動かした。

「誰がそう簡単にヤらせるかっ」

近付いた男の顎に下から頭突きを喰らわせ、倒す。

「ぐぅ…、てっめ!」

男は右手で顎を覆い、血走った目で圭志を睨み付けた。

周りにいた男達も様々な反応を見せる。

「ギャハハ、バカじゃねぇのお前!」

「それより俺にヤらせろよ。こういうの俺のタイプ」

別の男の手が伸びてきてベルトのバックルを外される。

「っの、野郎。俺に触んじゃねぇ!」

左足を動かしベルトに手をかけた男の急所を容赦なく蹴った。

「――っ!?」

声もなく崩れ落ちた男に圭志はホッと息を吐く。

しかし、それも束の間。

「圭志。それ以上抵抗したらコイツがどうなるか分かってるよね?」

ニコリと葵は笑い、武史に指示を出す。

「――ぐっ」

武史は剛史に拘束されている一夜の腹に拳を埋めた。


ダラリと一夜の頭が下を向き、ゴホゴホと咳き込む。

「一夜!っ、てめぇ相馬ぁ!てめぇだけはぜってぇ許さねぇ」

学習した男達に両足を押さえ付けられ、手をネクタイで縛り上げられ封じられる。

ご丁寧にも右足の傷口を押さえ付けられ、痛みが身体中を走り抜けた。

「どうやって?マワされた後でもまだそんな口が利けるかな?」

ワイシャツをはだけられ男の汚い手が肌の上を滑る。

「……っ!?」

圭志は嫌悪感に顔を歪め、声だけは出すまいと唇を噛み締めた。

「ふふっ、良い様だね圭志」

「…っ」

首筋に誰とも知れぬ熱い吐息がかかり、圭志は吐き気を覚えた。

(クソッ、気持ち悪ぃんだよ!さっさと離れろ)

圭志の願いとは裏腹に男の行為は悪化する。

ぬるりと湿ったものが肌に触れた。

「―――!」

「すっげぇスベスベな肌。これヤベェって」

「マジで?後で俺にもヤらせろよ」

そして、行為はもっとも最悪な方へ進む。

スボンの中へ手が侵入してくる。

「…っぅ、…先輩。俺の事は良いッスから…ケホッ…」

意識を飛ばしていたのか、一夜は目の前で行われてる行為を目にして弱々しく言葉を紡ぐ。

「おっとそうはいかねぇな。ここまで来て逃がすわけねぇだろ」

スボンの上から傷口を強く握られ、圭志は呻く。

「ぐっ…」

噛み締めすぎた唇からは血が滴り落ちた。


親衛隊はその様子を離れた所から見てクスクスと笑い、囁き合う。

「いい気味」

「これでやっと前の奴等と同じ様に学園から消えてくれるね」

雅也は圭志達から視線を背け、ただ黙って倉庫の壁に背を預けていた。

「ねぇ雅也、僕のしてる事は間違ってるのかな?」

その隣に岬がやって来て、雅也を見上げた。

葵の行為に、自分の行いに、岬は迷いを覚えていた。

校舎裏で圭志に言われた台詞が頭から離れない。

「…どちらでも俺はただ岬さんについて行くだけですから」

視線を動かした雅也は岬を見つめて、一言そう口にした。

そして、尚も圭志への行為は進む。

ズボンに侵入した手が妖しい動きをみせ、圭志は鳥肌を立てた。

(もう我慢できねぇ。コイツ等全員殺す!)

圭志は完全に痺れのとれた事を確認すると、一度固く目を閉ざし、身体中が発する痛みを無理矢理意識の奥に押し込めた。

目を閉じた圭志に男達はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。

「何だとうとう観念したのか?まぁ、どのみち俺達からは逃げれねぇけどなぁ」

「そうそう。抵抗しなきゃ気持ち良くしてやるぜ」

ギャハハハ、と笑う男達の側で葵もほくそ笑む。

「…クソッ。…っ、…俺の、心配は入らねぇって…っ、言ったじゃないッスか!」

痛みを堪えて一夜は叫んだ。








「あぁ…。悪いな、一夜」

パチッと目を開くと圭志はネクタイで縛られた手を持ち上げ、覆い被さるようにしていた男の後頭部に振り下ろした。

ゴッと鈍い音がして油断していた男は白目を剥く。

驚いて男達の拘束が緩んだ隙に、左足を動かし、左足を押さえ込んでいた奴の手を外す。

そして、その左足で右足を押さえていた奴の脇腹を狙った。

「ガァッ…」

圭志はその勢いで左へ体を転がすと男達の魔の手から逃れた。

一瞬の出来事に驚き、呆然とした葵はハッと我に返ると鋭い声で圭志に脅しをかけた。

「圭志!速水がどうなってもいいの!」

はだけたワイシャツをそのままに上体を起こした圭志は顔を上げ、脅しをかけてきた葵をジッと見つめ、笑った。

「あぁ、いいぜ」

「なっ!?」

肯定するとは思わなかったのか葵は目を見開く。

「ただし、出来るもんならなぁ!」

立ち上がった圭志は葵に狙いを定め、右足を引き摺りながら真っ直ぐ足を進めた。

「剛史!武史!」

その行く手を剛史と武史が阻む。

「あの方には手出しさせませんよ」

「………」

圭志は立ち塞がった二人に、その台詞に、ニヤリと口端を吊り上げ笑った。

「はっ、やっちまえ一夜」

「言われるまでも、ねぇッス!」

腕以外、自由になった一夜は無防備な葵の腹に右足の爪先を沈めた。


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