26


校舎を出て、第一体育館の倉庫に連れていかれた。

倉庫の入り口は一ヶ所。両開きの扉脇にはカードを通す溝が設置されている。

普段は鍵が掛けられ閉められている筈が今日は少し開いていた。

前を行く剛史は手の中でカードを閃かせ言う。

「倉庫の鍵を手に入れるのは簡単でしたよ」

ギィ、と両開きの扉を開けば中には岬を始め、京介の親衛隊。これまた金で雇われた不良達。

最奥には仮面を外した相馬 葵が待ち受けていた。

「………」

「リンチでもしようってか?一人じゃ何も出来ねぇ卑怯者が考えそうな事だぜ」

痺れて口の聞けない圭志の代わりに一夜が吐き捨てる。

「口を慎め、速水」

ガッと一夜は剛史に頬を殴られる。

「―っ。はっ、何度だって言ってやるぜ」

口の中が切れたのか一夜はペッと血の混じった唾を剛史に向かって吐きかけた。

「ぐっ…」

無表情になった剛史の拳が一夜の腹に突き刺さる。

「剛史、それより圭志を連れて来たんでしょ?」

その様子に葵が苛立たしげに言葉を発した。

剛史は扉を内側から施錠し、武史に視線で促す。

「この通り」

葵の前まで連れて来られた圭志は葵を睨み付けた。

ドサリとやや乱暴に下ろされ、ナイフで切られた足から血がポタリと落ちる。


「成瀬の奴等に潰されてれば、九琉に来ることもこんな目に合うこともなかったのにね。残念だよ圭志」

…成瀬、俺が前の学校を転校する原因になった奴だ。

俺の関係者、学校の友人、後輩を不良達に次々襲わせ怪我を負わせた。

元イトコ。すでに黒月から排除され、縁は切れている。

成瀬の名を出すって事は前の連中とグルか。

圭志は口の利けない変わりに目付きを鋭くさせ、葵を睨み付けた。

「なにその目。自分の立場分かってるの?僕の指示一つでどうとでもなるんだよ?」

葵が合図をすると圭志の周りを親衛隊が囲んだ。

「どうぞ隊長。神城会長の為にもやっちゃっていいですよ?」

どうやって丸め込んだのか親衛隊は葵の良いように動かされていた。

「今日はどこも委員会を開いてるから誰も助けになんて来ない。まして鍵は僕達の手の中。思う存分どうぞ―」

葵はニッコリ笑顔を浮かべ圭志から離れた。

付き従うように剛史と武史が葵の側に控える。

「―先輩!…ってめぇ等ふざけた真似してんじゃねぇぞ!」

雅也に動きを封じられた一夜がその様子に掠れた声を上げた。

クソッ、痺れてさえいなきゃ!

腕を動かそうとするもピクリとも動きゃしねぇ。

その間にも痛みが圭志を襲う。


抵抗する事もままならず、マットの上に転がされた圭志は親衛隊から殴る蹴るの暴行を受ける。

「――っ!!」

普段自分達で手を下さない分タチが悪い。手加減を知らないのだ。

「黒月先輩!」

一対多数。卑怯な事を嫌う一夜は何とかして助けようと腕に巻き付いたロープを外そうと歯を立てる。

それを無理だと思っているのか一夜を拘束した雅也は何もせず、岬を見ていた。

それでも圭志は屈する事なく、相手を睨み付ける。

「生意気なんだよっ!突然現れて京介様の隣に立つなんて許さない!」

「京介様だって迷惑してるんだから!だから変わりに僕達が消してあげるんだ!」

ドンッ、と腹部を蹴られ圭志は咳き込む。

(何が京介の為だ。アイツは…)

ナイフで切られた足は悪化しているのかジクジクと痛みを発し、足元には点々と血が落ちている。

「ゲホッ、ゲホッ…」

咳き込みながら圭志は感覚が戻ってきていることに気付いた。

まだピリピリと痺れはするが無理すれば動ける。

強力だと言ってた割りに回復が早い。疑問に思うも、圭志は次々と襲い来る暴力の嵐に耐えるため備えた。








「もうそろそろいいかな。甲斐隊長?」

葵の言葉に親衛隊は動きを止めた。

「いいけど…、ねぇソウ。ここまですればもういいんじゃない?」

制服は汚れ、ぐったりと倒れ伏している圭志に視線を落とし岬は言う。

そんな迷いを浮かべた岬の隣へ立つと、葵は倒れている圭志の肩を蹴って仰向けに転がした。

「まだ、ですよ」

そこにはボロボロになって尚、光を失わない、鋭い眼差しを葵に向ける圭志がいた。

「…相馬。てめぇ」

「もう口が聞けるようになったの?」

圭志が声を発したことに葵は驚き、好都合だと笑った。

「甲斐隊長達は下がってて下さい」

変わりに今度は不良達が圭志を囲む。

「剛史」

葵が何やら剛史に目配せをして指示を出す。

(あと少し…。そうすりゃ動ける)

痛みを堪え、指先を微かに動かし、圭志はタイミングを図る。

「俺に触るな、放せっ!」

その輪の中に、剛史に腕を掴まれた一夜が連れて来られた。

「おい、一夜に手ぇ出してみろ。ただじゃ済まさねぇ」

「自分の身より彼が大事?ふふっ、安心してよ。圭志が抵抗しなきゃ彼には手を出さないから。さぁ、始めようか」

葵は満足気に頷き、歪んだ笑みを一夜へ向けた。

「速水、お前は目の前で圭志がヤられる姿を見てるといい」

一夜は目を見開き、動きを止めた。


[ 68 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -