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そんな二人の行く手を遮るよう、いきなりすぐ横にある空き教室の前後の扉が開き制服を着崩した男達が現れる。

「よぉ、アンタが黒月 圭志だな」

囲まれる形となった圭志達は足を止めた。

「…人違いだって言ったら?」

面倒くさそうに圭志が答えれば血気盛んな男が吠える。

「嘘吐いてんじゃねぇぞ!」

良く見ればソイツは圭志が校舎裏で倒したうちの一人だった。

「なんだまたやられに来たのか。馬鹿な奴」

「なんだとっ!」

「先輩、後ろの奴等は俺にやらせてくれよ。アイツ等には借りがあるんだ」

圭志とは逆方向、後ろに視線を向けた一夜は言う。

「誰かと思えば速水じゃねぇか。お前も運が悪ぃな。ソイツに関わったばかりに二度も痛め付けられるはめになるとは」

ギャハハと品のない笑い声が上がる。

「まっ、お前は倒した後でたっぷり可愛がってやるよ」

「ふざけんな。誰がてめぇ等みてぇなゲス野郎にやられるかっ。はっ、返り討ちにしてやるからかかってこいよ」

一夜は不敵に笑い、相手を挑発した。

それを耳に圭志も口元に笑みをはく。

「同感だな。どうせお前等相馬に金でも握らされたんだろ。安い奴等だぜ」

「てっめぇ!!」

一夜と圭志の言葉が引き金となり男達が一斉に襲いかかった。


「一夜」

「なんスか?俺の心配なら捨てて下さいよっ」

圭志と一夜は自然、互いに背中合わせになって戦う。

右肘を相手の頬に打ち込み、倒れたところを圭志は容赦なく蹴りつける。

一夜も左膝を相手の腹部に埋め、おまけとばかりに右拳で顔面を殴りつけた。

「やり過ぎるなよ」

鼻血を吹いて倒れる男を視界に入れ、圭志はそう注意した。

「半殺しで止めときますって」

その台詞に男達はますますいきり立つ。

「速水ぃてめぇいい気になるなよっ!」

カシッと折り畳みナイフを取り出し一夜に突っ込んでくる。

「退け、一夜!」

それにいち速く気付いた圭志は一夜の腕を掴み引くと、瞬時に位置を入れ換わりナイフを持った右手目掛けて蹴りを放った。

ピッとズボンの裾が少し裂け、肌も切れたがナイフは圭志の蹴りにより男の手から離れた。

「先輩!」

「っの野郎!」

パタタッと血を振り撒きながら圭志はその足で男を沈めた。

血を見たせいか場の空気が高まる。中には逃げていく奴もいたが片手で数えられるくらいだ。

金に釣られた奴等だ。所詮こんなもんだ。

「―っ、何で俺を庇ったりするンスか!あれぐらい俺だって…」

「悪ぃな。お前がどうこうより勝手に体が動いてたんだ」

随分人数は減ったがそれでもまだ囲まれてる事に変わりはなかった。








そしてその様子を見ている人物が数名―。

「流石にアレはやり過ぎじゃないのか?」

ナイフを持ち出した事について言えばすぐ隣にいた人物が答える。

「逆に生温い位ですよ、ね甲斐隊長?」

剛史の言葉に岬は答えなかった。聞いた雅也はただ黙って岬を見つめる。

「さて、次の段階に移りましょうか。甲斐隊長は先に行って待っていて下さい。すぐに黒月 圭志を連れて行きますから。武史」

「はい」

無言のまま身を翻した岬の代わりに武史が出てくる。

「では手筈通りに」

雅也も岬の為だと頷き、行動を開始した。

乱闘する中に飛び込み、雅也は圭志ではなく一夜に狙いをつける。

前回参戦しなかった武史が圭志に向かった。

「とうとう出て来たか」

烏合の衆とは違う、キレのあるパンチが圭志に襲い掛かる。

「………」

武史は眉一つ動かさず圭志に攻撃を加えていく。

「相馬の人形がっ」

バシィ、と乾いた音を立てて武史の拳を受け止めた圭志は危険を承知で武史のこめかみに向けて右拳を打つ。

「かはっ…っ…」

しかし、それは背後から聞こえてきた声により僅かにぶれた。

一夜!

その隙を見逃すほど武史は甘くない。

腰を落とすと圭志に掴まれていた手を返し、柔道の投げ技のように投げ飛ばし関節を極める。

「――っ!?」

ドン、と背中から落ちた圭志は息を詰め、痛みに歯を食い縛った。


コツリ、と足音がして圭志の顔に影が落ちる。

「言ったでしょう?圭志様は甘過ぎるって」

「てめぇは剛史…」

薄笑いを浮かべた剛史は手にしていた白い布を圭志の鼻と口に押し当てる。

「―っ」

とっさに息を止めた圭志に尚も笑いかけ、続けた。

「安心して下さい。ただの痺れ薬ですよ。ちょっと強力なだけで」

息をずっと止めていることは不可能で、体を動かして抵抗することも関節を極められている圭志は出来なかった。

吸い込んだ痺れ薬が圭志の四肢の自由を奪う。

武史が離れても圭志は動けなかった。

唯一自由になる目で一夜を探した。

「けほっ、けほっ…」

膝を折った一夜の前には雅也が立っていた。

決して一夜が弱いわけではない。雅也が何かしら武術をかじっているせいだ。ただの喧嘩なら一夜が勝っていた筈だった。

「速水とか言ったっけ?ソイツも連れて行こう。人質に使えそうだ」

剛史の指示に、一夜は手をロープで拘束される。

すぐ後ろに雅也がつき、逃げられないように見張っている。

圭志は武史の肩に担がれ、運ばれる。

「てめぇ、俺にこんなことしてただで済むと思うなよ。自由になったらボコボコにしてやる」

一夜は殴られて痛む腹から低い声を出し、雅也と前を行く篠原兄弟を睨み付けた。

その際、圭志と視線が絡むと一夜はこんなの慣れてるッスからと肩を竦めてみせた。


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