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テスト最終日。今日が終われば夏休み目前。

そわそわと落ち着かない空気の中、最後のテストが開始された。

真剣な表情で問題用紙に視線を落とす者、諦める者、最終日になればテストに向かう気持ちもどちらかになってくる。

唯一変わらないのはカリカリとペンの走る音だけ。

「はい終了〜。後ろから集めて」

授業終了のチャイムが鳴り、ガタガタとうるさくなる。

「はぁ〜、やっと終わったぜ。なぁ明、この後どっか遊びに行かね?」

圭志はシャーペンを机の上に転がし、体を解すように伸びをした。

「行きたいけどこの後、風紀の集まりがあるんだ」

「そういやHRで藍人がそんな事言ってたな」

放課後、各委員会の集まりがあるとか。

じゃぁ誰も遊べないのか?いや、待て一人暇そうなのがいるな。

と、その前に…。

「京介、お前も集まりとかあるのか?」

「あるぜ。面倒臭いけどな。夏休み中の事とか、秋にある行事についてとか今から色々話し合わなきゃなんねぇからな。何なら来るか?」

「いや、俺がいても意味ねぇだろうし遠慮しとく」

面倒臭そうに言う割りにサボろうとはしないんだな。

そう言って席を立った京介を圭志はほんの少し見直した。

本当にほんの少し。


圭志は明と京介が出て行ってから携帯を取り出し、電話をかけた。

五コール目が終わる時に相手は電話に出た。

「よぉ」

圭志が軽く通話口へ話しかければ相手は驚いた様で、次の瞬間には嬉しそうな声を出した。

『どうしたんスか?先輩から電話してくるなんて。俺に会いたくなったとか?』

「そうだって言ったらどうする?」

軽口を叩く一夜に圭志も軽口で返す。

『そりゃ嬉しいッスけど、…違うんでしょ?』

「さぁ?ところで暇だろ?ちょっと付き合えよ」

椅子から立ち上がると圭志は一夜に迎えに行くから待ってろと告げて通話切った。

悪いな一夜。俺はもうお前をそういう対象で見れそうにねぇ。

右隣の空席を無意識に視界に納め、圭志は教室を出た。

一年の階に足を踏み入れればパラパラと残っていた生徒が圭志に視線を向けてくる。

「おい、あの人黒月先輩じゃね?」

「うわぁ、カッコイイ…」

Sクラスの開いた後ろドアから中を覗き、机に座って複数の生徒と談笑している一夜に声をかけた。

「一夜。迎えに来たぜ」

「先輩!じゃぁなお前ら」

一夜は机から降りると談笑していた奴等にそう言って、圭志の元にやって来た。

「足はもう平気みたいだな」

「ばっちりッス。で、先輩。何処連れてってくれるンスか?」

圭志の隣に立ち、一夜は首を傾げた。


「とりあえず学園から出て、街に行こうぜ」

特に目的があるわけじゃないがずっと学園にいたら息が詰まりそうだ、と圭志は一夜を促す。

「じゃぁ、俺がいつも行ってる所に行かねぇッスか?結構楽しいッスよ」

「変な所じゃねぇだろな?」

「なっ、失礼な!先輩は俺をどんな奴だと思ってンスか。俺だって常識ぐらいは弁えてるっての」

廊下を歩きながら一夜は不機嫌そうに唇を尖らせた。

「まぁ、先輩が俺の相手をしてくれるってンなら喜んで何処へなりとも連れてくッスけど…。先輩その気ないだろ?」

「あぁ、ないな。だけど…」

圭志は隣を歩く一夜の腕を掴むと直ぐ側にあった柱の影に押さえつけた。

「約束は守るぜ?」

いきなりの事に一夜は驚き、目を見開いた。

「何するン…」

圭志は一夜の頬に右手を滑らせフッと笑みを浮かべる。

そして、互いの吐息がかかるぐらい顔を近付けると圭志はゆっくりと一夜の唇に己の唇を重ねた。

「んっ…」

視線を絡ませたまま、唇を離すと一夜がいきなり何するンスか、と小さく呟く。

「お前のその相手は出来ねぇ。けど、言っただろ?その間抜けなもんがとれたら相手してやるってな」

聞き覚えのある台詞に一夜はあ、と声をもらす。

「アレって約束だったンスか…?」

「まぁな」

押さえつけていた腕を離すと圭志は何事もなかったかのような顔をした。


再び歩き始めた一夜は圭志に抗議の声を上げる。

「っていうか今のは狡いッスよ。俺、不意打ちは数に入れない主義ですから」

「そりゃ残念。次があるといいな」

「ンなこと言ってする気ねぇくせに」

拗ねたように言う一夜に圭志は心中で苦笑した。

お前は俺の中でお気に入りの後輩って位置付けされちまったからな。

それ以上でもそれ以下でもない。

「それ以外だったらいつでも相手してやるぜ」

こんな風に遊びに出掛けたりな。

一夜はそう言って自分に笑いかける圭志の笑顔がどこか前と違うことに気付いた。

前は強気で誰も寄せ付けないような雰囲気を纏った笑みを見せていた。

それが今は嘘みたいに穏やかな笑みを一夜に向けてくる。

圭志の変化を目に、一夜はこんなことさせられんのはアイツしかいねぇと散々自分を牽制してきた人物を思い浮かべた。

「会長様のせいッスか…」

まさかそこに、自分が関係しているとは一夜はまったく気付いていなかった。

「ん、何か言ったか?」

小さくもらされた声は圭志には届かない。

「…何でもないッス。早く行きましょ」

向けられた笑顔が一夜には少し悔しかった。



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