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次の日、テストを受け終えた圭志は三年の教室が並ぶ廊下を歩いていた。

ネクタイの色が違うせいか圭志に視線が集まる。

「おっ、あれ二年じゃね?何しに来たんだろうな」

「さぁ?」

「ねぇねぇ、あの人カッコ良くな〜い!?」

「バッカ、お前等知らねぇの?アイツ、二年の黒月だよ」

「あぁ!こないだの新聞の。神城の恋人か」

「えぇ〜〜!!」

だが、目立っている理由はどうやらネクタイのせいだけではなかった。

圭志は不快な単語に眉を寄せ、廊下を進む。

そして、目的の3年A組の近くまで来た時、中から見知った人物が出てきた。

「あれぇ?どうしたの黒月くん?」

「どうも、高科先輩」

正直、今は会いたくなかった。だが、無視するわけにもいかず圭志は挨拶を返した。

その瞬間、ざわりと圭志を見ていた三年達がざわめいた。

「アイツ、観月の知り合いかよ。やべぇよ」

「え〜、ショック〜」

囁かれる内容が変わり、受ける視線もなんだか変わった。

観月はそれらをまるで気にする事なくにこにこ笑っている。

「僕に会いに来たの?」

「残念ながら先輩に用はない」

「ちぇ〜、つれないねぇ。しょうがないから今日は諦めるけど次は僕に会いに来てね」

にっこりと可愛らしく笑った観月に圭志は会いたくなったらな、とそっけなく返して横を通り過ぎた。


扉の近くにいた三年を捕まえて圭志は相馬 葵を呼んでもらう。

背の低い、つり目がちな少年が呼ばれて圭志を振り返った。

「あれ?誰かと思えば圭志じゃん」

気安く声を上げ、葵は圭志の元へ近付いて来た。

「お久し振りです、相馬先輩」

「嫌だな。先輩なんてつけなくてもいいのに」

「ちょっと聞きたい事があるんでついて来てもらえませんか?」

圭志は普段見せている表情を隠し、作った笑みを浮かべて言った。

それに葵は少し考える素振りを見せて頷いた。

「別にいいよ」

了解を得た圭志は葵を連れて三年の教室を後にした。

「それにしても本当久し振りだよね。圭志は九琉を蹴って別の学校行っちゃうし、本家の行事にも顔出さないし」

ぺらぺらと一人喋る葵を煩わしく思いながらも圭志は隣を歩く。

九琉を蹴ったのはお前等がいるから。結局、今通うはめになっているが。

行事に顔を出さないのだって俺や親父をよく思ってない連中に絡まれるのを避ける為だ。

圭志は別棟三階、くしくも昨日京介が訪れた第一音楽室の扉を開けた。

それはただの偶然。圭志は人気が無く、防音された場所としてこの場を選んだだけのこと。

室内へ足を踏み入れた圭志の背を見つめ、葵は僅かに表情を歪めた。

圭志は黒板の前辺りまで進むと立ち止まり、振り返った。

そして唐突に話を切り出す。

「常盤先輩は元気ですか?」

常盤 弥彦、三年S組。葵と同じく圭志のイトコの内一人である。

「…弥彦なら元気なんじゃない?僕も最近会ってないから詳しくは分からないけど。それがどうかした?」

きょとりと首を傾げる葵に圭志は内心苦笑する。

カマをかけてみたがここまでとは。嘘を吐くのが相変わらず下手な奴だ。

「いえ、常盤先輩が学園にいるって聞いたから元気かなって思っただけです。先輩と仲良かったみたいだから」

「そう」

「それと昨日、篠原兄弟に会いましたよ?」

「………」

その言葉を口にした途端、葵が警戒したのが圭志に伝わってきた。

きっとコイツ等は学園という檻の中でぬくぬく育ったに違いない。

あからさまな反応に圭志は思う。

その証拠が自分の手を汚さない証。

「随分面白い事言ってました」

「何を?」

「黒月の後継者に俺は相応しくないとか色々」

葵は驚いたように一つ瞬きをすると笑った。

「そんなことないよ〜。僕は圭志こそ相応しいと思うけどな。彼等には僕からきちんと言っておくよ」

「えぇ、是非そうして下さい」

「話はそれで終わりかな?明日のテストに備えて勉強したいから帰りたいんだけど…」

困った顔でこちらを見つめる葵に圭志は最後に一つだけ、と言い、一呼吸置いて告げた。

「二度目は無いと思え」








葵と圭志が去った第一音楽室。実は先客が一人存在していた。

「黒月の奴もやるねぇ。わざわざ挑発して炙り出そうとは」

それは昨日、京介と風紀、不良どもがこの教室で一悶着起こしていたのを知る人物。

静は証拠隠滅の為、音楽室を訪れていた。

風紀を味方につけているとはいえ、生徒会長が乱闘騒ぎを起こしたとバレたら後々面倒な事になりかねないからな。

「さて、京介に報告でもしとくか」

携帯を取り出し静は愉しげにボタンを押した。











変わってこちらは苛々と苛立たしげに通話ボタンを押す。

『………何だ?』

八コール目で相手がやっと出た。

「弥彦!どうしよう、圭志に気付かれてる」

『…何だそんな事か』

「そんな事って!?アイツ、僕に向かって二度目はないって」

その時向けられた冷たい視線を思いだし葵の体が震える。

『バレたなら消せばいい。逆に好都合だ。隠れる必要も無くなった』

「でもっ、神城に差し向けた不良どももやられちゃったし」

『…なら、諦めるか?俺は別にそれでも構わないけどな』

淡々とした声が葵を追い詰める。

「―っ、僕はどうしたらいい?」

そして葵は自ら選択をした。




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