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三人がちょうど夕飯を食べ終えて席を立とうとした頃、食堂の入り口が騒がしくなった。

「誰か来たみたいだな」

圭志はそう言って席を立つと騒ぎの中心に目をやった。

つられるようにして椅子から立ち上がった明と透も同じ方へ視線を向ける。

「「キャーー、京介様〜!!!」」

「「静様〜〜!!」」

にっこりと笑みを浮かべて応える静に、フッと口元に弧を描いて堂々と此方へ歩いてくる京介がそこにはいた。

佐久間の言う通り何もなかったみてぇだな。

「黒月?眉間に皺寄ってるけど…、神城に会いたくないならさっさと行くか?」

「あ?」

どうやら京介をジッと見ていたら知らぬ間に眉間に皺が寄っていたらしい。

「そんな事言って明は佐久間さんに会いたくないだけでしょ」

「おおお俺は別にそんなことっ!」

慌て出した明も気になるが圭志にはもう一つ気になった事があった。

…あの二人仲良いのか?

同じ生徒会なんだから仲は悪くねぇんだろうけど何かこう…。

階段を上がってきた京介と静は上からの視線に気付いて顔を上げた。

「お、先客がいる」

「お前等だけで上使うなんて珍しいな」

階段を上り終えた二人は圭志達を見て口々にそう言った。

「何だもう食べ終わってるのか。残念」

静はテーブルの上を見て、肩を竦めると椅子を引いてそこへ座った。

「黒月、行こう」

珍しく明の方から圭志の背を押し、ここから離れようと急かす。

「ん?おぅ」

目的は果たしたし、明に押されるがまま圭志は歩き出した。

「圭志」

が、京介に腕を掴まれ立ち止まる形になる。

「なん…んっ!?」

その声に応えようとした瞬間、圭志は目を見開き明はすぐ側でカチーンと真っ赤に顔を染め上げて固まった。

「油断してると痛い目みるぜ」

掠めるように唇を奪った京介はニヤリ、と笑みを浮かべ圭志の腕を放した。

「…京介てめぇ」

確かにここ最近ちょっかい出される事がなかったから油断していたとはいえ、反撃すら圭志には出来なかった。

圭志の頬が仄かに赤く染まる。

「うっわ、黒月が赤くなるのなんて初めて見るわ俺。明ならしょっちゅう見るけど。はぁ〜、貴重なもん見ちまったぜ」

眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げて静がまじまじと言う。

「……覚えてろ京介。透、明行くぞ」

自分でも顔が赤くなっている自覚がある圭志はこれ以上醜態はさらせないとさっさと階段を降りていってしまった。










予定通り風紀室にやってきた圭志はソファーにドサリと座ると右手で顔を覆った。

「圭ちゃん、僕ちょっと教科書とかとってくるから待っててね」

「おぅ」

左手をヒラリと振って応えると透は出ていった。

シンと静かになった室内には明と圭志が残される。

「そんなとこ突っ立ってないで座れよ」

はぁ、と赤みの引いた顔を上げて、扉の前から動こうとしない明に言う。

「…ぅ、うん」

それに明はぎこちない動作で頷くと圭志から離れた副委員長席に落ち着いた。

「………明?」

自分の事でいっぱいいっぱいになっていた圭志は漸く明が可笑しなことに気づいた。

真っ赤になって固まったり慌てたりする明がどことなく沈んでるような気がする。

ぼぅと何処を見てるのか分からない明を眺めながら圭志は考えを巡らせる。

とはいえ心当たりは一つだけ。

京介の隣にいた喰えないあの男だ。

「佐久間に何かされたのか?」

「!?」

ビクッと目に見えて反応した明だが何でもないと首を横に振った。

「ならいいけどな。何かあったら言えよ」

ソファーから立ち上がり空席になっている委員長席に座る。

机の上に閉じて置いてあったノートパソコンを勝手に開き立ち上げた。

圭志は何食わぬ顔でカチカチとマウスを操作し、風紀委員と生徒会しか閲覧できない学園内の資料にアクセスしていく。

途中、チラッと明に目だけを向けたが咎められる様子もなく圭志は作業を進めた。

新たなウインドウを開いては閉じ、それを数度繰り返す。

「圭ちゃ〜ん、持ってきたよ!」

風紀室に戻ってきた透にじゃぁ、その前に何か飲み物淹れてくれ、と生返事で返し圭志は一旦手を止めた。

あまりにも簡単に出てきた情報に圭志は眉を寄せる。

「罠か…?」

画面には三人の人間の顔写真と簡略化されたプロフィール。

篠原 剛史
2年B組在籍 17歳
古くから相馬家に仕えている篠原家長男

篠原 武史
1年A組在籍 16歳
篠原家次男

相馬(黒月) 葵
3年A組 18歳
黒月分家の一つ。学園では母方相馬の姓を名乗る。

「3年A組か。他に関係者は…」

覚えている限りの名前を打ち込み、検索をかける。

―ヒット数二件、『トキワ ヤヒコ』『ハヤマ カズシ』

常盤、半々か。何度か相馬と一緒にいるのを見たことがあったな。

葉山は完璧違うな。アイツは面倒事を嫌うし、後継者争いに興味はねぇ。

圭志は思考を巡らせながら腕組みをし、画面を睨み付けた。

「…ん!…圭ちゃんってば!」

画面の前にいきなり現れた顔に圭志は驚く。

「―っ、何だ?」

「何だじゃないでしょ〜!飲み物もちゃんと用意したし勉強教えてよ!!」

「あぁ、そうだったな。悪ぃ」

カチカチと見ていたウインドウを閉じて圭志は立ち上がった。


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