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「ん…」

何だか身体の至るところが痛む。

複数の人の気配と声が微かに聞こえて、圭志はゆっくりと目を開いた。

「っ、…ここは?」

染み一つない真っ白な天井に、首を巡らせれば白いカーテンが視界に入る。

「そうか、保健室か…」

気を失う前の出来事を思い出し、眉間に皺を寄せた。

「っ…、余計なこと思い出しちまった」

アレは俺にとって思い出したくない出来事だったから、無意識の内に脳が忘却していたのだろう。

自分の記憶が正しければあの後、雨に濡れて高熱を出して倒れた覚えがある。

「はぁ…」

微かに痛む体を動かし上体を起こす。

ネクタイとブレザーは脱がされたのか、枕元の籠に畳んで置いてあり、圭志はワイシャツの上から左胸の辺りを押さえた。

そこからとくん、とくん、と掌に鼓動が伝わる。

「はぁ…、マジ無理。勘弁してくれよ」

そこへ、圭志が起きた事に気付いたのかシャッ、とカーテンを開けて白衣を着た保険医が顔を覗かせた。

「おっ、起きたみたいだね〜。良かった良かった」

「黒月!!大丈夫かっ!?どっか痛い所とか…、俺っ…」

「落ち着けよ明」

「明…と佐久間…?」

保険医の後ろから現れた二人に圭志は首を傾げた。

「明がお前を見つけたんだ」

そして最後に京介がそう言って姿をみせた。


それからまず保険医に身体の状態を色々聞かれた。

「うん、大丈夫そうだね。二三日体が痛むかも知れないけど」

「どうも」

一応受け身はとったし、頭は打っていない。ただ誤算は落ちた衝撃が思ったより強く、気を失った事だけだ。

診察が一通り終わり、保険医が側から離れると静に肩を掴まれた明がホッとしたような顔で口を開いた。

「良かった…、びっくりさせんなよ」

「悪い。明が見つけてくれたんだって?」

籠に入っていたブレザーを羽織り、ネクタイをポケットに突っ込む。

「そうだよ。階段の下で見つけて、声かけても目開けないし…」

「で、明から連絡を受けて俺がお前をここまで運んできたんだ」

ポンポン、と明を落ち着かせるように肩に置いた手を動かし静が続けてそう言った。

「佐久間にも迷惑かけたな、悪い」

「いいや別に。俺より…」

静は自分の後方にいる京介に視線をやった。

釣られて視線を向けた圭志とこちらをジッと見つめていた京介の視線が絡まる。

「………」

「………」

京介はアレを俺だとまだ気付いていないんだろうか?

反らされることの無い瞳にドクリ、と心臓が一度大きく脈打った。
先に視線を反らしたのは圭志だった。

京介はその様子にいつもと変わらず、フッと口端を吊り上げる。

「階段から落ちたんだってな。お前意外と抜けてん所あるな」

「…うるせぇ。嫌味を言いに来ただけなら帰れ」

「それだけ元気なら平気だね、うん。神城くん、先生これから職員会議があるから後は頼むよ」

時計をチラリと確認して保険医は書類の入ったファイルを持って出て行った。

「じゃぁ俺等も用があるから行くわ」

静は明の肩を抱くようにして扉の方へ促した。

「え?俺は別に…」

圭志が心配で一緒に帰ろうと思い始めていた明は静にそう言われ慌てて否定する。

「あるだろ?速水の件とか」

「あ!」

耳元でこそっと言われ、今まで圭志の事でいっぱいいっぱいになっていた明はすっかり忘れてた!と声を上げた。

でもそれを何で静が知っているんだ、と明は首を傾げた。

「ってことで、じゃぁなお二人さん」

明は静に連れられる形で保健室を出て行った。

それをベッドの上で上半身を起こした状態で見送った圭志は、一人動く気配をみせない京介に言う。

「お前は行かなくていいのかよ?」

「生徒会の仕事は今んとこねぇよ」

京介はそう言ってベッドの側に立ち、圭志の頬に手を伸ばした。




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