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―――

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〔圭ちゃん可愛い〜!さすが私の息子ね!!〕

〔嫌だ!俺、着替えるっ!!〕

何だコレ?俺か?

目の前には今とあまり変わっていない年齢不詳の母親と、赤みがかった黒髪が肩まである小さな女の子、の格好をした男の子。

〔せっかく可愛いのに。何がそんなに嫌なの?〕

〔…こんな格好京に見られたくない〕

今日は久しぶりに京の家に行ける日だった。

なのに母さんは俺に女の子の格好をさせて連れて行こうとする。

絶対嫌だ。こんなの京に嫌われる。

〔分かった。圭ちゃんはその格好を京くんに見られるのが嫌なのね?〕

〔うん〕

〔じゃぁ、向こうの家についたら京くんに会う前に着替えていいからそれまで我慢して〕

それなら、と頷いた俺。

そうだ!思い出した。この後――

目の前で場面が切り替わる。

広い洋館の一室、約束通り着替えてもいいと言われて着替え始めようとしたその時。

ガチャ、

〔圭ー?来てるのか?〕

〔え!?〕

名前を呼ばれた事で驚いて振り返った俺と部屋へ入ってきた京との視線が絡まった。

〔…可愛い〕

ポツリ、と聞こえた呟きに俺は自分の格好を思い出してカッと顔を赤くして俯いた。


その間にも京は近づいてくる。

〔………っ〕

どうしよ?声を出したら俺だってバレちゃう。

そう思うと赤かった顔から熱が引いていくのが分かった。

俯いていた視界に、京の足が入ってくる。

〔何で女の子が…?なぁ、お前名前は?〕

俺だって気づいてない?
…よかった。

ホッ、と安堵のため息を吐いたのも束の間、京に両頬を掴まれて顔を上げさせられた。

ジッ、と見つめてくる京に俺はほんの少しの羞恥とバレて嫌われるんじゃないかという恐怖に、知らず瞳を潤ませていた。

嫌だよ…京。気づかないで。

半ばパニックになっていた俺は、次に京が言った台詞をうまく飲み込めなかった。

〔お前俺のモノになれよ〕

京のモノってなに?

声も出せずにただ佇んでいた俺の視界いっぱいに、京の顔が写った。

それと同時に唇にちょん、と柔らかい感触。

〔!?〕

頭の中が一瞬真っ白になって、気づいた時には京の左頬に向かって平手打ちを放っていた。

〔〜っ!〕

何が何だか分からなくて、俺は頬を押さえた京を置き去りに部屋を飛び出した。

その時、廊下で誰かとぶつかりそうになったけど、俺は構わず走り抜けた。


なんで?どうして?

混乱する思考のまま部屋を飛び出した俺はいつの間にか外へ出ていた。

玄関を出た先にある噴水前で、京が触れた唇を掌で覆って俺は立ち止まった。

落としたままだった視線が水面を捉え、そこにどんよりとした曇り空をバックに自分だけど自分じゃない人物が写る。

俺が女の子の格好してたから、京は俺を女の子だと思った?

だからあんなこと…?

〔………やだ〕

そう思ったら胸が苦しくなった。

何だよこれ。

服の上から胸の辺りを押さえる。

〔俺どうしちゃったんだろ…〕

数時間前はあんなに京に会うのが楽しみだったのに、今は会いたくなかった。

こんな事になるなら…、

〔来なきゃよかった〕

そして、俺の気持ちと呼応するようにぽつり、ぽつりと雨が降り始めた―。



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―――

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