08


「ん〜、良く寝た」

午前中の授業を全て寝て過ごした圭志は伸びをしてすっきりした顔をしていた。

「あれ?どうした明?」

圭志とは逆に疲れたような顔して教科書をしまっている明に圭志は聞く。

「なんでもない…」

そう言う声も心なしか元気がない。

首を傾げる圭志の横で、京介は自分のせいにも関わらずそ知らぬ振りをする。

「授業で疲れたんだろ。それより、食堂行くぞ」

「ん、あぁ。って、何でお前と行かなきゃなんねぇんだよ」

寝起きで頭が回っていない圭志はあやうく頷きかけた。

そこへ、

「圭ちゃ〜ん、明〜!食堂行こう!」

透がやって来た。

「そういや、透と飯食うの久しぶりだな」

「だって圭ちゃんサボってばっかでいつもお昼いないじゃん。夜だって留守ばっかで…」

むくれ始めた透の言葉に、悪ぃな、誰かさんのせいで忙しくてな、と圭志は態とらしく京介に視線をやる。

京介はその視線を受けフッ、と口角を上げた。

「あっ、そっか。会長との時間が大切…」

「透、お昼食べに行くんだろ?早く行こう」

透が余計な事を言いそうになったので、明は面倒な事になる前に遮った。

「ほら、黒月も神城も早く…」

「何でコイツまで誘うんだよ?」

「当然だろ」

二人は仲が良いのか悪いのか、言い合いをしながらも席を立って歩き始める。

その後を明と透はついていく形で教室を出た。









四人で食堂に入れば珍しい組み合わせに生徒達はざわつき、その後キャーキャー騒ぎ始める。

「キャー!!京介様〜〜!」

「圭志様〜〜!!」

「透ちゃん可愛いー」

「好きです、明様〜!!」

その中を京介と圭志は堂々と進んで行くが、二階へ上がる螺旋階段の前で立ち止まった。

圭志は後ろを振り向く。

「明達は何処で食べるんだ?」

そう聞かれて明は隣の透を見る。

「う〜ん、圭ちゃんと一緒ならどっちでもいいよv僕、明と大抵一緒にいるから上あがっても平気だし」

そうでなくても風紀委員として権利はある。

「あれ?でも黒月は…」

そこまでいって明はふと疑問を覚えた。

それには圭志が答える前に京介が口を挟んだ。

「コイツは良いんだ。俺が許可した」

そうなんだ、と文句も言わず大人しくそれを受け入れてる圭志を明は少し驚いたように見た。

「俺だって飯ぐらい落ち着いて食いたいからな」

その理由は何ともあっさりしたものだった。

そして、四人が二階席に上がると先客がいた。

「これはまた珍しい組み合わせですね…」

「会長達も今からお昼ですか?」

宗太は皐月の頬に付いたケチャップをフキンで拭ってやっていた。


どうせだから、と先客二人と同じテーブルで一緒に食べることになりそれぞれ席につく。

時計回りに宗太、皐月、明、透、圭志、京介、という順に座った。

それぞれ注文し、料理を待つ。

「そういえば京介。静が貴方を探してましたよ」

宗太は箸を止め、水の入ったグラスを傾けている京介に言う。

京介はちら、と宗太に視線をやるだけでそれに応えた。

「それと、昨日貴方の親衛隊が動いたと風紀から報告がきました」

明もちゃんと仕事してるんだな、と圭志はそれを他人事のように聞いていた。

「そうだ!黒月。昨日の事もそうだけどまだ聞いてないぞ」

「…後でな」

明を適当にあしらっている圭志の隣で京介は宗太にへぇ、と興味なさげに返した。

「被害はなかったんだろ?ならいいじゃねぇか」

ウエイターが運んできた料理を並べていく。

「…貴方は何を考えてるんですか?」

宗太が訝しげに眉を寄せる。

だが京介はフッ、と口の端を吊り上げただけで答えなかった。

会話が途切れ、各自運ばれてきた料理に手をつけ始める。

「圭志、お前午後も出んのか?」

「HRだけ出る」

つまり午後の授業はサボると。

「ふぅん。なら俺もHRだけ出るか」


堂々とサボる宣言をしている二人に宗太はますます眉間に皺を寄せた。

「明、この二人ちゃんと教室まで引っ張って行きなさい」

「えぇ!?無理だよ!」

これまでの付き合いから明は瞬時にそう判断した。

「無理でもやるんです。貴方、それでも風紀ですか?サボる生徒を見逃すんですか?」

「うっ…」

返答に詰まり助けを求めて視線をさ迷わせた明に透は頑張って、とにっこり笑った。

「お前も風紀だろ〜」

「僕まで巻き込むなんて醜いよ明。それに僕には荷が重い」

そこへそれまで大人しく食事をしていた皐月が助けを出した。

「宗太先輩。それは僕もちょっと無理だと思います…」

こちらの話に耳を貸さず、また屋上でサボんのかやらお前は来んなとか食事しながら言い合っている京介と圭志を見て皐月は困ったような表情になった。

「まったく…。京介、黒月君。貴方達は大人しく食事もとれないんですか」

しだいに子供の喧嘩の様な言い合いなってきた二人に宗太は呆れた眼差しを向けた。

「「俺じゃねぇ。こいつが」」

と、反発してる割りには二人そろって仲良く相手のせいにした。

「…馬鹿らしい。皐月、食べ終わりましたか?」

相手にするのも疲れたのか呆れた表情で呟き、後半部分は皐月に笑顔を向けて聞いた。

皐月がこくりと頷くと、宗太は皐月の頭を撫でた。

その瞬間、食堂に悲鳴が上がった。

下から二階席は見えるようになっていて、生徒会の誰かが微笑んだりすればその笑みやられた生徒が騒いだりすることは良くある。

今の様に宗太が皐月の頭を撫でてやったりするのを目撃した場合も。

「「「キャーーー」」」

しかし、どうも悲鳴の種類がいつもと違った。嬉しくて上げるものではなく悲しい方。

今まで言い合いをしていた京介はピタリと止めると真面目な顔になった。

「宗太」

そして、立ち上がりかけていた宗太の名を呼び下で何が起こったのか確認させる。

なんとなく圭志も立ち上がり二階席から下を見た。

そして、その騒ぎの中心に赤い髪を見つけた。

「アイツ…」

赤い髪なんて圭志が知る限り一人しかいない。

一夜は上からの視線に気付いたのか一瞬二階席を見上げる仕草をした。

「悲鳴の原因はどうやら速水君みたいですね」

京介に下で起きていることを伝えている宗太の隣で圭志はジッと一夜を見ていた。

一夜は見るからに不機嫌そうにブスッとしていて、その綺麗な顔に大きな湿布が貼ってある。

足も怪我しているのか右足を少し引き摺るようにして歩いている。

報告を聞いて興味を示したのか明も席を立って下を覗く。

「うわぁ、喧嘩でもしたのか。痛そう」




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