05


風紀室のある八階からシルバーカードを使い降りてきた圭志はやっと部屋に帰ってこれた、と部屋の鍵を外した。

中に入り、靴を脱いで玄関を上がる。

ネクタイを右手で引き抜きながらいつも通りリビングへ入った。

しかし、そこには予想していなかった光景があった。

「――っ!!何でてめぇがここにいんだよ、京介!」

リビングのソファーに凭れ、我が物顔で足を組んで座る京介がいた。

「よぉ、遅かったな圭志」

にやり、と笑う京介の笑みが癪に障り圭志は鋭く睨み付ける。

「どうやって入った?」

「俺にそれを聞くのか?愚問だな」

圭志は舌打ちして、リビングに入ると抜き取ったネクタイをブレザーのポケットにぞんざいに突っ込み、京介の直ぐ側で立ち止まった。

「何しに来た?」

「そう急くんじゃねぇ。座れよ」

「偉そうに言うな。ここは俺の部屋だ」

圭志は京介を見下ろしたまま再度何しに来た、と問いかけた。

京介はその問いに当然のことのようにこう答えた。

「何しにもお前の部屋にいる時点で分かんだろ。お前に会いに来た」

京介の言うように二人は同じクラスだというのに新聞が張り出されて以降、こうして顔を会わせるのは初めてだった。


圭志は、じゃぁ目的は果たしただろ、帰れ。と冷たい態度でリビングの扉を指す。

「はっ、帰るわけねぇだろ」

そう言って、動く素振りも見せない京介に圭志は眉間に皺を寄せ、仕方なく正面のソファーに腰を下ろした。

「そんなに嫌か?」

他の奴なら泣いて喜ぶぜ、と京介はソファーに座った圭志を見ながら言う。

それに、何が、と聞くまでもなく圭志はきっぱり切って捨てる。

「嫌に決まってんだろ。他の奴等と一緒にすんな。だいたい、俺はお前みたいのより小さくて可愛い奴の方が好きなんだよ」

じっ、と真正面から互いに視線をぶつけ合う。

「………」

「………」

先に視線を外したのは意外にも京介の方だった。

京介はゆっくりと立ち上がり、今度は逆に圭志を見下ろす。

「まぁいい。今は、な。そんなこと言えんのも後少しだ」

意味ありげな言い方に圭志はいぶかしんだ。

「どういう意味だ?」

京介はさぁ、と曖昧に誤魔化した上、疑問に疑問で返す。

「反生徒会の連中は集まりそうか?」

何で知ってる、と京介に聞くことも馬鹿らしくて圭志は睨み付けるのをやめ、挑発的に答えてやる。

「お陰様で。お前に恋人をとられた奴とか恨みを持つ奴が結構多くて助かってるぜ」

一昨日と昨日、まだ始めたばかりの反勢力集め。

交流会で生徒会、主に京介に不満を持つ連中がいるのを圭志は知った。


京介は圭志の挑発に口端を吊り上げ、座っている圭志の頬に右手を伸ばす。

しかし、その手は頬に触れる前に圭志に掴まれた。

「俺に触んな」

頑なに京介を拒む圭志に、京介はいっそう笑みを深める。

「フッ、精々頑張れ」

俺のためにもな、と最後の方は心の中で呟き、グイ、と掴まれた手を引く。

それに慌てて手を放した圭志だが一瞬遅く、身を屈めた京介に唇を奪われた。

「っ!!」

「じゃぁな。明日は教室に顔だせよ」

圭志の右ストレートをひらりとかわし、京介は部屋から出て行った。

「〜っ、京介の野郎」

深いキスをされるより、触れるだけのキスの方が羞恥を煽り、圭志は思わず頬を薄く染めた。

「こんなの俺じゃねぇ…」

圭志は血の昇った頭を冷やそうとバスルームへ入っていった。









部屋から出た京介は七階にある自室に向かうべくエレベーターを待つ。

くくっ、もう少しだ。もう少しで邪魔者は消える。この俺がまとめて消してやる。

動くなら早く動け。

下から上がってきたエレベーターが開き、三人の生徒が下りる。

「うわ、会長!?」

「京介様だぁv」

「…ボサッとしてないで行こうぜ」

三人が乗っていたエレベーターに乗り、ボタンの横にある溝にカードをスライドさせ七階を押した。

壁に背を預け、腕組みをして目を瞑る。

俺が何も知らないと思ったか?そうだとしたら大間違いだぜ。

圭志、お前こそ俺を他の奴等と一緒にすんじゃねぇ。

この俺を、見縊るなよ?


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