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東寮八階-風紀室-

一般生徒は滅多に立ち入ることの出来ない部屋である。

その部屋の応接室に雅也と圭志を連れてきた明は風紀として先程の乱闘騒ぎについて調書をとり始めた。

透は別に、廊下に倒れていた生徒達の方を片付けてもらっている。

「それで、何でまた寮の廊下なんかで喧嘩してたんだよ?」

雅也は答える気がないのかずっと無言を貫き通している。

その代わりに圭志が口を開く。

「コイツ等が待ち伏せしてて、俺に絡んできたんだ」

「それで喧嘩に?」

「そ。でも先に手ぇだしてきたのはコイツだぜ」

圭志は一人分空けて隣に座る雅也を指差した。

あれが態とだと気付いていたが雅也はここでも反論しなかった。

「敷島、何で黒月を待ち伏せなんかしたんだ?」

聞かなくても本当は分かっている。敷島 雅也(シキシマ マサヤ)2-B、神城 京介の親衛隊隊長甲斐 岬(カイ ミサキ)2-B、の側にいつも控えている忠実な臣下的存在。

「コイツが気に入らなかったから待ち伏せして潰してやろうと思っただけだ」

やっと口を開いた雅也だが岬の存在は口にしなかった。

「じゃぁ、逃げていった他の生徒は?」

明が追及しても慣れているのか雅也はひらりとかわす。

「あれは傍観してた奴等だ。新見が来たんで逃げたんだろ」

誰だって巻き込まれたくないと思うだろ。

正論を述べる雅也に、これ以上聞いても口を割らないだろうと判断した明は雅也から調書をとるのを早々に切り上げた。

「分かった。この件は後で生徒会に報告させてもらう。で、敷島は倒れてた生徒達と三日間の寮内謹慎、プラス反省文十枚」

そう言って副委員長席の引き出しから紙の束を持ってきて雅也の前に置く。

雅也は慣れているのかその紙束を受けとるとソファーから立ち上がり扉へ向かった。

部屋から雅也が出ていったのを見送り明は圭志の正面のソファーに腰を下ろした。

「アイツ出てったけどカードなきゃエレベーター使えねぇんじゃねぇの?」

「外に透がいるから平気だよ」

「ふぅん」

つまらなそうに返事をする圭志に明はソファーから少し身を乗り出す。

「それより黒月、今まで何処にいたんだよ?部屋に行っても留守だし、教室にも来ない。心配したんたぞ」

「あぁ、ちょっとな」

圭志は明の問いに素っ気なく答える。

「ちょっとな、って…。黒月、神城の事まだ怒ってんのか?そりゃ勝手に進めた神城も悪いけどちゃんと話せば…」

「明。その話しはまた今度な。俺、疲れてるから帰りてぇんだけど」

明の言葉を遮り、圭志は立ち上がる。


「ちょ、ちょっと待てよ!帰ってもいいけど、せめて明日はちゃんと教室に来いよ!!」

すでに扉の方へ歩き出している圭志の背に、明は慌ててそう言う。

圭志はそれにわかった、と右手をヒラヒラさせ出ていった。

バタン、と閉まった扉を見ながら明は呟く。

「俺じゃ黒月の力にはなれないのか?」

そりゃ、俺じゃ頼り無いかも知れないけど俺だって…。

明は明日もう一度、圭志に話を聞こうと思った。

「でもその前に俺の出来ることをやろう」

明は調書を手に副委員長席に座る。

机の一番下の鍵のかかった引き出しから分厚いファイルを取り出し、パラパラ捲っていく。

そして、とあるページで手を止めた。

甲斐 岬、2-B。所属:神城 京介親衛隊、隊長。

以下、幹部やメンバーの名前がズラリと並ぶそのページで手を止め調書に書き加えていく。

親衛隊による暴力沙汰等、風紀としての経験から嫌でも大体が見えてくる。

その作業を始めて少しした時、風紀室の扉が開いた。

「明〜、こっちの処理終わったよ」

「そいつ等何か喋ったか?」

明の問いに透は首を横に振る。

「なぁんにも。でも、敷島がいたから十中八九甲斐の仕業でしょ。まったく、圭ちゃんを狙うなんて許せないっ」

透は文句を言いながら、倒れていた生徒達の名前を記した紙と調書を明に渡した。


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