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新聞部が発行した記事には、京介と圭志がパーティーに登場した時の写真が大きく取りあげられ、見出しには次期風紀委員長か!?と太字で大きく書かれていた。

また、その記事は学内の食堂、玄関と生徒が必ず使用する場所の掲示板に貼り出されていた。

「それで、今日も来てないんですね黒月君は」

宗太は生徒会室のソファーに座り、対面で困ったように頷いた明を見た。

新聞が貼り出されてから三日目。その日から圭志は教室に姿を見せていない、と明が宗太に相談しに来たのだ。

「授業の方は免除があるからいいとしても…、一体何をしてるんでしょうね」

今まで見てきた黒月君の性格からして逃げるって選択肢は無いでしょうし、と紅茶に口を付けながら宗太は考える。

そこへ、重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように椅子から立ち上がった静が、処理し終わった紙束を持ってやって来た。

「別にそこまで心配しなくても平気だろ。黒月だって馬鹿じゃない。ほら、コレ」

そう言って紙束を宗太に渡すと当然のように明の隣に座り、テーブルに置いてあったカップを手にした。

「あっ、それ俺の!」

コクリ、と残っていた紅茶を飲み干し静は笑う。

「間接キスだな」

「〜〜〜っ!?」

明は顔を真っ赤にするとバッと立ち上がり、授業があるから帰ると言って出て行ってしまう。

「静、貴方もいい加減明をからかうのはやめたらどうですか?」

「俺の勝手だろ?それに、明に沈んだ顔は似合わないと思わないか?明はあぁじゃなくては」

クスリ、と微笑んで眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。


そして、昼休み終了を告げるチャイムと共に京介が生徒会室に入ってきた。

京介は中にいる二人を視認した途端僅かに眉間に皺をよせた。

だが何も言わずそのまま生徒会室の奥に設けられている仮眠室に向かう。

「京介、ちょとこっち来いよ」

それを静がソファーに座ったまま手招きして呼ぶ。

「何だ?」

京介は面倒臭そうに振り返り、戻ってくると一人掛けのソファーに足を組んで座った。

その瞳は早く用件を言え、と言っている。

宗太も静が何を言うのか黙って待つ。

「さっきは明がいたから言わなかったけどさ、俺、黒月見たぜ」

「どこでですか?」

「西寮のロビー」

静の言葉に黙って聞いていた京介がぴくり、と反応した。

宗太も顎に手をあて、考える仕草をした。

「西寮、ですか…」

「そっ、三年の寮。確か彼処には京介の苦手な人物がいたよな〜」

もしかして誰かにそれを聞いてその人の所に行ったのかもな、と最後の方、静は京介に向けて言った。

京介はその人物を思い浮かべたのか忌々しそうに舌打ちした。










その頃、圭志は西寮の廊下を歩いていた。

「神城も見境ないねぇ」

一人の少年と共に。

背は低く、栗色の髪は肩につくかつかないか程度で、ぱっちりとした薄茶色の瞳をしている。

ネクタイの色が青色で、それでかろうじて三年生だと分かる。

圭志は並んで歩く少年の言葉に、こっちはいい迷惑です、と返した。

「あはは、黒月くんだっけ?良い性格してるねぇ」

少年は声を立てて笑う。

「それは、どうも」

「ふふふ、僕が今会長だったら神城と同じ事したかもねぇ」

少年は冗談なのか本気なのかくすくす笑いながら一つの扉の前で立ち止まった。

そして、扉横に設置されているインターフォンを押した。

-ピンポーン

ざざっ、と雑音がしてから低い声が流れた。

『…はい。誰?』

「僕だよ〜。開けてぇ」

『…ちょっと待て』

ブツリ、と切れて鍵の外れる音がした。

「さっ、入ろっか。黒月くん」

「お邪魔します」

少年に続くようにして圭志は扉をくぐった。


部屋は広く、暖色系で整えられており、ゆったりとした落ち着いた雰囲気があった。

その中で一人掛けのソファーに、しっとりとした黒髪に黒い瞳の、端正な顔をした男が座っていた。

「湊(ミナト)」

湊と少年に呼ばれた男は、入ってきた二人に視線を向けた。

「観月(ミヅキ)と、…後ろにいるのは二年の黒月か」

湊は無表情のまま圭志を見やる。

「初めまして、葛西先輩」

圭志は軽く会釈して葛西 湊(カサイ ミナト)を見返した。

「黒月くんが神城にいじめられて困ってるんだって」

少年、観月はそう言って勝手に湊の正面のソファーに座ると、圭志の腕を引いて隣に座らせた。

それはいつもの事なのか湊は気にせず淡々と言葉をつむぐ。

「学園新聞を見たから大体は知っている。でも、会長の後任にと推したのは観月、お前だ」

「まぁねぇ。神城は僕のお気に入りでもあるし」

と、前会長であった高科 観月(タカシナ ミヅキ)はあっさりと認めた。

「会長ってのは人気投票じゃなかったんですか?」

湊の言い方に圭志は疑問を覚えて口を挟んだ。

「その前に黒月くん。敬語使わなくていいよぉ。なんか似合わないし。ね、湊?」

「あぁ、別に構わない」


「じゃぁ、遠慮無く」

圭志はあっさりと承諾した。

「それで、僕が推したって話だったよねぇ。あれは…」

「観月が急に会長職を降りると言い出したことから始まった」

言葉を途中で切った観月に代わり、湊が淡々と事のあらましを話し始めた。



会長職は知っての通り人気投票で、湊達が一年の時トップになった観月が会長に選ばれた。

会長職しかり、生徒会、風紀と任期は二年。

だが、ちょうど観月が二年に進級し新一年生が入学してきた頃、急に観月が会長を降りると言い始めた。

理由は簡単、デスクワークが嫌になったからだった。

我が儘を言う観月に周りは大いに困った。

それを当時副会長だった湊が納めたのだ。

皆が納得できるだけの人物を連れて来い、と。

そして、観月が連れて来たのが当時一年だった京介で。

話しはトントンと進み観月率いる生徒会、風紀は任期を待たずして解散、神城率いる新生徒会、風紀発足となった。

よって、今にいたるというワケだ―。



「余計な事を…」

圭志が小さく呟いた言葉は静かな室内にやけにはっきりと響いた。

「えへへ、だって会長の仕事大変だったんだもん」

「ほとんど俺が処理してたがな」

つまり、この二人の関係は京介と宗太のような感じなのか。

と、言っても話を聞くに観月の方が質の悪さは上みたいだ。

いつもサボっているように見える京介はあれでも最低限の仕事はこなしている。

圭志は悪びれた様子もなく笑う観月を冷めた目で見下ろした。



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