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圭志の不満の声に今度は藍人がそっちこそ何言ってんだ、という顔をした。

「お前の連れだろ。それぐらいしてもいいんじゃないか?」

「連れって、いつから俺がアイツと仲良くなったってんだ?」

確に、良く一緒にいたような気はするがそれは不可抗力であって避けられなかったからである。

決して俺から近付いたワケでも、仲良くしようと思ったことも無い。

その意味も込めて言ってやれば藍人は別に隠す必要はないだろ、とそれこそ理解できない事を口にした。

「次期風紀委員長」

「………それは何の冗談だ?」

風紀委員長、それは生徒会長の恋人を指す言葉ではなかったか?

圭志は混乱し始めた頭で、考える。

「と、言ってもまだ候補みたいだけどな。俺が見る限り十中八九お前で決まりだろ」

「――っ、鏡先生!!」

ガタリ、と椅子から立ち上がり明が話を遮った。

焦ったような表情で明は藍人を見る。

「それ、どこで…」

「新聞部の奴らがさっき掲示板に貼ってた記事に書いてあったぞ」

今頃、生徒達が集まってんじゃないか、と藍人はこともなげに返した。

「新聞部…ってことはパーティーの記事が上がったのか」

明は圭志の反応が気になり恐る恐る圭志を見た。


「――っ!!」

だが、そこには予想に反して、笑みを浮かべる圭志がいた。

その笑みに気味悪さを感じて明は寒くもないのに無意識に服の上から腕を擦った。

「そうか、お前がその気なら俺にも考えがあるぜ」

そう言って椅子から立ち上がる。

「おっ、落ち着けよ、黒月。まだ候補に上がったってだけで指名されたワケじゃないし。な?」

何とか圭志をなだめようとした明に、圭志は今まで見せたことのないぐらい冷ややかな瞳を向けた。

「明、風紀は指名されたら断れないんだったな?」

問い掛けというよりも確認に近い言い方に、むしろそのガラリと変わった雰囲気に圧倒され、明は口籠りながら頷いた。

「そうだけど…」

「なら話は簡単だ。京介を会長の座から引きずり下ろしてやる」

指名される前に、その職から降ろせば指名する権利もなくなる。

例え先に指名されても役職さえ無くなればそれも無効になる。

「何もそこまでしなくても…」

と、呟く明を無視して圭志は扉に向かって歩き始めた。

また、爆弾を投下した藍人はすでにおらず、室内にいた面々もその雰囲気に口を挟めずにいた。

圭志は周りを気にすること無く、すたすたと扉に向かいガラリ、と扉を開けた。

「あっ、圭志様!!あの、お話があるんですけど今いいですか?」

そこへ、圭志を待っていたのか教室から出た圭志に声が掛けられた。


視線をちょっと下へ移せば茶色い柔らかそうな髪をぴこぴこ跳ねさせた小柄な少年が、頬をうっすら紅色に染めて、同じく茶色い大きな瞳で圭志を見上げていた。

「…誰だ?」

圭志がそっけなく聞けば、少年は慌てて自己紹介をした。

「初めまして、2Bの桐生 渚(キリュウ ナギサ)です。それで…」

「桐生…、桐生か。俺の親衛隊隊長っていう?」

「はいっ、そうです!実はその件でお話がありまして」

圭志が自分を知っていたということに渚は嬉しそうに頷いた。

「……ちょうど良いとこに来たな。俺も話がある」

一瞬、考える仕草をした圭志はそう言って渚の肩に手を回すと一緒に来い、と渚に有無を言わせず歩き始めた。

「どこ行くんですか?」

「俺の部屋だ。嫌か?」

渚はその言葉にカァッ、と顔を赤らめてブンブンと勢いよく首を横に振った。

去っていく二人の後ろ姿を何も出来ず見送ってしまった明は一人頭を抱えたくなった。

「どうすんだよ神城…。黙ってるだけじゃすまなそうだぞ…」

圭志のあの怒り様は凄まじい、怖かった。前みたいに生徒会室に怒鳴り込んでくれた方がまだマシだった。

「はぁ〜、マジでどうしよう…」

何だかんだ言いつつ巻き込まれる明だった。





第二章完

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