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静が二階席を後にしてからというもの誰も来ず、なぜか昼食を京介と一緒にとった圭志は今、廊下を一人歩いていた。

(授業免除があるとはいえ、さすがに丸々サボるわけにはいかねぇよな)

との、考えで午後の授業を受けるため教室に向かっていた。

「キャー、黒月君だぁ!」

「格好良い〜」

同学年の可愛い子達が圭志を見て騒ぐ。

「やっぱ騒がれるならこうだよな…」

圭志は心持ち上機嫌で己の教室に入って行った。








午後の授業開始までまだ数分ある室内は人が出たり入ったり、ざわざわとして落ち着きがなかった。

「お、黒月じゃん」

「よぉ、人気者!今までサボりか」

圭志が教室に入れば扉付近にいた男子生徒二人組が話しかけてきた。

「羨ましいか?首席になりゃサボりたい放題だぜ?」

「けっ、どうせ俺達には無理ですよーだ」

「はははは、サボりたい放題って随分はっきり言うなぁ」

圭志の2Sでの生活はこんなものだ。

数名の京介ファンに睨まれることはあるものの、特に敵視されたりもせず、比較的穏やかに過ごしている。

圭志は二人と軽口を交し合って、自分の席に向かった。

「あれ、黒月。来たのか?てっきり今日はもう来ないのかと思ってた」

隣の席に座る明が圭志を見て軽く目を見開いた。


「あぁ、たまには受けとこうかと思って」

椅子を引いて座る。

「そうなんだ。でも次、鏡先生の授業だぞ?」

明は英語の教科書とノートを机の中から出して言う。

「藍人か…」

鏡 藍人、2S担任のせいかいつもサボる圭志と京介に厳しい。

といっても圭志は今だ京介が教室で授業を受けている姿を見たことがない。

明が言う分には京介の扱いも圭志と同じらしいが。

「お前ら席つけ〜。授業始めるぞ」

いつの間にチャイムが鳴ったのか藍人が教室に入ってきた。

「お、黒月。お前朝いなかっただろ。来たのか?」

「まぁ、たまには」

体を前に向け、机に肘をついて圭志は答えた。

「たまには、か…まっ来ない奴よりましか」

藍人は肩を竦めて視線を圭志の横に流した。

「さ、始めるぞ。この間の続きから…」

そして、いつものように教科書を広げ授業を開始した。

「ところで、どこまで進んでんだ?」

圭志は全く使われていない綺麗な教科書を机から出してパラパラ捲る。

「ん〜、この辺」

明は開いたページを指して圭志に見せる。

「ふぅん、結構進んでんな」

焦るでもなくそう言って教科書を閉じると机にしまってしまう。

それを授業しながらめざとく見付けた藍人は態とらしく室内を見渡して口を開いた。

「では、この英文を誰かに訳して貰おうか…、黒月」

「…………はいはい」

毎回の事に圭志は面倒臭そうに返事をして椅子から立ち上がった。










「…ろつき、黒月ってば!!」

ゆさゆさと揺さぶられる感覚で圭志は目を覚ました。

「…んっ、…ぁ?」

圭志は肩に置かれた手の持ち主をぼんやりと見つめた。

「授業受けるんじゃなかったのかよ?鏡先生の授業が終わったら速効寝始めて。もうHRだぞ」

明はどこか呆れたようにそう言った。

圭志はぼんやりとしたまま明の方に手を伸ばす。

「黒月?どうかしたのか?」

首を傾げる明の頭に手を乗せ、圭志はフワリと微笑んだ。

「ん、サンキュ」

「……くっ、黒月!?」

一度も目にしたことのない柔かい笑みを見せられて明はもちろんクラス中が赤面し動揺した。

「………ぐぅ」

だが、それも一瞬で明の頭からパタリと手が落ち、再び規則正しい寝息が聞こえ始める。

圭志の微笑みにシンと静まりかえっていた室内が誰かの呟きを始めに騒がしさを取り戻す。

「黒月って可愛かったんだな…」

「見た!?今の!!」

「すっげぇレアなもん見ちまったぜ」

「あぁ〜、写真に納めたかったぁ!!」

間近でその微笑みを目撃してしまった明は僅かに速まった鼓動に一人パニックっていた。

「え?えっ…、何、コレ?」

「何やってんだお前ら、早く席付け」

藍人は教室に入るなり扉付近にいた生徒の頭を軽く名簿で叩いて、騒がしい室内をグルリと見渡して言った。

「そこのオレンジ、隣の奴起こせ」

藍人は教壇に立ち、明とその隣で寝てる圭志に視線をやった。

「………はい」

明は圭志から視線を反らしたまま、圭志の肩に手を置き揺さぶる。

その間クラス中の視線が圭志に向けられていた。


今度は何事もなく起きてくれた圭志に安堵し、明はホッとした。

「ふぁっ、良く寝た」

圭志は欠伸を噛み殺して明の方を見る。

「なぁ、もう帰っていいのか?」

だがそれには明ではなくヒクリと口元を引き攣らせた藍人が答えた。

「黒月、お前には俺が見えないのか?その目は節穴か?」

「……まだか」

今気付いたと、本当に視界に入っていなかったのか圭志はそう呟いて机に頬杖を付いた。

「お前な。……まぁいい。来月の頭から期末テストが始まる。結果いかんでは来年クラス落ちもあるから頑張るように。連絡は以上」

藍人はテストの日程が綴られた紙を配りながらそう締め括った。

「クラス落ち…?」

始めて耳にする言葉に圭志は首を傾げて繰り返した。

「透が言ってただろ。三年は同じクラスが良いって」

「あぁ、そっか。クラス分けって成績が絡んでんだったな」

俺には関係ねぇけど、と口にしたら叩かれそうな事を心の中で呟いた。

「あ〜、っとそれから黒月。次から授業出るときは神城も連れて来い。いくら生徒会で授業免除があるからってサボりすぎだ」

ちょうど教室から出ようとしていた藍人がふと、思い出したように室内を振り返り圭志に言った。

「はぁ?何で俺が!!」

それに対し、意味が分からないと圭志は声を上げた。



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