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-ピンポーン

圭志は片手をズボンのポケットに突っ込んだ状態で-105-と扉に表示のされている部屋のチャイムを鳴らした。

-ガチャリ

「は〜い、えぇ!?」

しかし、出てきたのは夏樹ではなく赤茶に染めた髪色を持つ少年だった。

(そうか首席と次席以外は二人部屋だったな…)

「ぇ、っと黒月先輩…ですよね?」

「あぁ。夏樹いるか?」

少年はちょっと待って下さいと言ってばたばたと中に戻っていく。

圭志は細く開かれた扉の横の壁にもたれかかり夏樹が出てくるのを待つ。

「夏樹、夏樹!!黒月先輩がお前を訪ねて来たぞ!!」

「わっ!?早く行かなきゃ」

中から少年と夏樹の声が圭志の元まで聞こえてくる。

「何、先輩と知り合いになった?で、今から出かけるって!?ずりぃぞ、夏樹」

「ごめんて、帰ってきたら詳しく話すから」

ばたばたと足音がして夏樹が出てきた。

「圭志先輩おはようごいます!!待たせちゃってすいません」

「いや別に。じゃ行くか」

圭志は自然に夏樹の右手に己の左手を絡めて歩き始めた。

「……っ」

それをこのフロアの廊下にいた一年生達が羨ましそうに見ていた。









学園から離れ二人は町中を手を繋いだまま歩く。

「お前の同室者面白そうな奴だな」

「え?もしかして聞こえてたんですか!?恥ずかしっ」

頬を染める夏樹に圭志はやっぱこうだよな…、と怒涛に過ぎていった数日間を思い起こし癒される。

じっとその横顔を見ていれば、夏樹が赤い顔のまま圭志をちらりと見上げてきた。

「圭志先輩、所で何処に向かってるんですか?」

何も言われず圭志に手を引かれるまま付いてきた夏樹は首を傾げて聞く。

「とりあえず久しぶりに町中まで出ようかと思ってな。夏樹はどっか行きたいとこあるか?」

「僕は圭志先輩といられれば…」

「フッ、可愛いこと言ってくれんじゃねぇか」

圭志は耳まで赤くしてうつ向く夏樹を引き寄せ、道端にも関わらず頬にキスをした。

「先輩っ!?」

再び圭志に手を引かれ歩き始めた二人は人が賑わう通りに出た。

そこで夏樹はちらちらとこちらに視線を向けてくる人達がいることに気付いた。

その多くは綺麗な大人の女性。

たぶん皆圭志先輩を見てるんだろうなぁ、と夏樹はつい繋いでいた指に力を込めてしまう。

「どうした夏樹?どっか入りたい店でもあったか?」

「え、ううん。そうじゃなくて…」

急に元気の無くなった夏樹を不思議に思いつつ圭志はとある方向に向かって歩き出す。






「うわ〜、凄い!!」

圭志が夏樹を連れてきたのはビル群を見下ろせる展望台。

夏樹はガラスに両手を付き、キラキラと瞳を輝かせて展望台から見渡せる景色に喜んでいた。

圭志は夏樹の背後に立ち、右手である一角を指差す。

「あそこが学園だな」

「あっ、本当だ!!」

どうやら元気を取り戻したらしい夏樹に圭志は笑みを浮かべた。

「夏樹」

腕を下ろし、後ろから抱き込んでその名を呼ぶと夏樹はビクリと肩を揺らし戸惑ったように圭志を見上げてきた。

「圭志先輩?」

視線をうろうろさ迷わせ、恥ずかしそうに頬を染める。

「大丈夫だって。回りも似たような奴らばっかで誰も見てねぇよ」

そう言って顔を近付けてくる圭志に夏樹は逆らえず自然と目を閉じた。

「んっ」

そうは言ってもさすがに圭志も場をわきまえているのか公共の場で深いものをすることもなく、何回か軽く触れるだけで離れた。

「くくくっ、夏樹真っ赤だぜ」

「……だってっ」

真っ赤になってうつ向いてしまった夏樹を腕の中から放し、手を繋ぐと次行くか、と圭志は夏樹の顔を覗き込んで聞いた。

それに夏樹は恥ずかしそうにチラリと圭志と視線を合わせると頷いた。


それからお店を数件まわり、昼食をとった二人は先程展望台から見えた広い公園に来ていた。

「圭志先輩、あれ食べませんか?」

夏樹の指差した方向には移動販売のクレープ屋がクレープの販売をしていた。

目をキラキラさせている夏樹の手を引いて圭志はクレープ屋の前まで歩く。

「どれが欲しいんだ?」

「う〜ん、イチゴクレープにしようかな…」

キョロキョロと視線を動かしながら言う夏樹の頭を撫で、圭志はイチゴクレープを一つ注文してお金を払う。

「圭志先輩!!僕、自分で払いますから!!」

慌てて止める夏樹に圭志は男らしい笑みを浮かべて言う。

「デートだろ?これぐらい俺が奢ってやる」

店員からクレープを受取り、夏樹は赤い顔で圭志にお礼を言う。

二人は公園内のベンチに座り、休憩することにした。

「先輩も一口食べませんか?」

夏樹が圭志の方にクレープを差し出せば圭志はフッと笑って、一口貰いそのまま夏樹に口付ける。

「んっ…はぁ…んんっ…」

口に含んだクリームが互いの口内で溶け、混じり合う。

「ぁ…ふっ…せんぱぃ」

潤んだ瞳で見つめてくる夏樹から唇を離せば互いの間を銀の糸が繋ぐ。

それをペロリと舐めとり圭志は瞳を細めた。


「俺のものになるか?」

ポーッと熱に浮かされたようになっている夏樹の耳元で圭志は囁く。

夏樹はピクリと肩を揺らして反応し、コクリと頷いた。

「夏樹」

「んっ…ぁ…はぁ…んんっ」

クレープを持つ手を掴み、深く口付ける。

夏樹は頬を紅潮させ、切なそうに眉を寄せる。

その表情をジッと見つめていた圭志は己の内側からジワリ、と発生した熱を認識した途端唇を放した。

「続きは今度な」

乱れた呼吸を整えている夏樹に熱っぽい瞳を向け、圭志は言った。

(本当はシテぇけどアイツがやっかいなモノを残してったからな。クソッ)

夏樹を胸に引き寄せ、内にくすぶる熱を鎮めた。

暫く無言で抱き合っていれば夏樹がそういえば…、とポツリと話し始める。

「何だ?」

圭志は夏樹を腕の中から放して続きを聞く。

「圭志先輩に親衛隊ができるって聞いたんですけど本当ですか?」

「あ?」

初耳な情報に圭志は間の抜けた声を出してしまった。

「あれ?違うんですか?」

「どっから聞いたんだそんなこと」

首を傾げる夏樹は一年の間じゃ噂になってると教えてくれた。

「ふぅん、親衛隊か…」

(これは使えるかな?)

微かに口端を上げた圭志を夏樹は不思議そうに見ていた。


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