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窓際に引かれているカーテンの隙間から明るい陽射しが差しこんでくる。

「………んっ」

その眩しさから逃れようと圭志は布団に顔を埋めた、…筈だった。

「起きたのか?」

しかし、布団だと思ったものは硬く温かくて、その上声まで降ってきた。

完全に覚醒していない圭志はその声が誰のものだったのか考える事も疑問を持つこともせず再び寝に入る。

「おい、圭志」

「………ん」

寝惚けているとはいえ、知らない内に圭志は京介の胸に顔を埋めて寝てしまった。

「……こいつ朝に弱ぇのか?」

それとも明け方まで酷使した体のせいで起きれないのか。

自分に対していつも強気で反抗的な態度を崩さない圭志の、初めて見る幼い一面に京介も滅多に見せない優しげな瞳で胸の中で眠る圭志を見つめ、同じようにして再び目を閉じた。






そして、次に目を覚ましたのは部屋のドアを叩く音だった。

ドン、ドン、ドン!!!

「…んだよ、うっせぇな」

その音で目を覚ました京介は眉間に皺を寄せ不機嫌丸出しで呟いた。

「……んんっ」

圭志も音に反応して顔をしかめるともぞもぞ動き出す。

「ちっ、邪魔しやがって。誰だいったい」

圭志を腕の中から解放し、京介は起き上がるとベットの下に落ちていたシャツを無造作に羽織り寝室から出て行った。


煩く叩かれるドアの鍵を外し、勢いよく開くとそこに立つ人物を睨みつけた。

「…朝っぱらから何だ」

色の違う前髪を掻き上げ、鋭い瞳で見てくる京介に目の前に立つ相手は苛立ちを隠す事無く言った。

「何が朝っぱらから、ですか!!もう10時過ぎですよ!!まったく、貴方は何を考えてるんですかっ」

「あ゛ぁ?」

そう宗太に言われ京介は室内にあった時計に視線をやる。

時計は10時17分を差していた。

「昨夜も急にいなくなって。あの後、騒ぎ出した生徒達をなだめるのにどんなに苦労した事か。それに、黒月君もあれきり戻ってこない。京介、聞いてるんですか!!」

室内を見たままこちらに視線を戻さない京介に宗太が声を上げる。

「ちっ、てめぇが騒ぐからアイツが起きちまっただろ」

ガタン、と音のした方に視線をやり京介は宗太を置いて室内に戻る。

宗太もその後をついて部屋の中に入る。

「…そういえば黒月君はどうしたんですか?」

先を進む京介の背を見つめながら聞く。

が、京介はそれに答えず、寝室の扉の前に立つと顔に不敵な笑みを浮かべて扉を開いた。

「よぉ、圭志。気分はどうだ?」

圭志は床に足を投げ出し、ベットに寄りかかっていた。

そして、寝室に入ってきた京介を見るとぎっと睨みつけ文句を言おうと口を開いた。

「…な…ざ」

しかし、声がかすれて言葉になっていない。


京介の後から寝室に入ってきた宗太はそんな圭志を見るやいなや目を見開いて驚いた。

「く、ろつき君…?」

京介は驚く宗太に水持ってきてやれ、と言って圭志に近付く。

圭志は近付く京介を睨みつけたまま動かない。

「強情な奴」

フッ、と笑い京介はベットに寄りかかる圭志の横に立つと圭志を見下ろした。

「初めて男を受け入れた感想は?」

そう聞かれ、圭志の顔色が羞恥からなのか怒りからなのか真っ赤に染まる。

それでも尚、視線を京介から外さない圭志に京介の笑みが深まる。

「圭志」

なんだよ、と刺刺しい視線で促せば京介は圭志の横に膝を付いて視線を合わせてくる。

「もし、俺以外を受け入れたら…そいつを潰してやる。もちろんお前もたたじゃおかねぇからな、覚えとけ」

「て…が…!!」

ぱくぱくと口を開いて抗議する圭志を無視して京介は立ち上がると、水を持って戻ってきた宗太からペットボトルを受けとる。

宗太は手足を投げ出して座っている圭志をちらりと見て、京介に鋭い視線を向けた。

「京介、貴方まさか黒月君を無理矢理押し倒したりしてませんよね?」

そうだとしたら許さない、と険のある目つきで水を口に含む京介にそう投げ掛けた。


京介は水を口に含んだまま圭志の横に戻ると、圭志の顎を掴み口付ける。

「…んっ…はっ…」

温くなった水が圭志の口内に注がれ、喉を通り、ごくりと音を立てて飲み込まれた。

「…っは、てめぇ、京介!!何しやがる!!」

まだ少しかすれた声で圭志は京介を怒鳴りつける。

「何って水を飲ませてやったんだ。動けねぇんだろお前」

実際京介の言う通り、朝方まで酷使された体はだるく重くて動かすのが辛かった。おまけに動くたび人には言えない部分が痺れたように痛みを発し、腰にも鈍い痛みがはしる。

それでも、飄飄とした顔で告げる京介に圭志は文句を言わずにはいられなかった。

「誰のせいだと思ってやがる!!」

「俺だろ」

そう返してもう一度水をあおった京介はまたしても圭志の唇に己の唇を重ねて水を流し込んでやる。

その様子を離れて見ていた宗太は、ヤられたわりにはショックも受けず、京介を怒鳴りつける圭志を見て何だか難しい顔をした。

「黒月君、京介にヤられたんですよね?」

その問いに圭志は嫌な顔をして宗太を睨みつけた。

「…態々聞くんじゃねぇ。不愉快だ」

「フッ、他の奴らは皆俺に抱かれりゃ喜ぶぜ?」

横でにやりと笑った京介に視線も向けず圭志は吐き捨てる。

「俺をそいつらと一緒にすんじゃねぇ」

昨夜、京介が圭志にとった行動で二人の関係が悪い方向に崩れてしまったかと心配した宗太は、以前と変わらず目の前で言い合いを続ける二人を見て心の中でこっそり安堵の溜め息を吐いた。

「ともかく今は―」

言い合う二人に声を掛けようとした時、宗太の携帯がそれを遮った。

軽快なメロディーが流れ、二人の視線が宗太に向けられる。

宗太はポケットから携帯を取り出すと、もしもし、と電話に出た。

そして、二言三言言葉を交すと切った。

「京介、今はそれより交流会を優先して下さい。会長がいないと生徒達にしめしがつきません」

「ちっ」

京介は舌打ちを一つして、面倒臭そうに前髪を掻き上げると持っていたペットボトルをサイドテーブルに置き、寝室の扉へ向かう。

「おい、待て」

その背に圭志が声を掛け、何だ?と振り返った京介に圭志は命令口調で続けた。

「肩貸せ」

それを聞いた宗太は圭志が交流会に参加しようとしているのでは、と思い口を挟む。

「黒月君、貴方は無理せず休んでいて下さい」

「そうだぜ、お前は休んでろ」

立ち止まったまま言う京介に、いいから早くしろ、と視線で促して屈ませると、右腕を京介の肩に回して立ち上がる。

「――っ、痛って…」

顔をしかめ左手で自分の腰をさする圭志に京介はそりゃそうだと笑った。

「思う存分楽しませてもらったからな」

それから文句を言い続ける圭志をソファーに座らせた京介と宗太は、圭志に大人しくしているよう告げて二日目の交流会に向かった。


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