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ホテルの一室でそんなことが行われているとは知らない会場では、生徒会がゲームの賞品の発表をしていた。

マイクを握っているのはもちろん皐月だ。

「…続きまして、副会長とのデート券を手に入れた生徒は挙手して下さい」

それにおずおずと手を挙げた生徒の元に静が向かう。

「可愛いね君、名前は?」

「一年の里見です」

目の前に来た静に顔を赤くしてその生徒は言った。

「里見ね。さて、俺と何処でデートしたい?」

「先輩が行きたい所でいいですっ」

そう?と静は笑って里見の耳に唇を近付けると何やら囁いた。

里見もそれにこくこく頷くと、静は皐月に向かって口を開く。

「皐月ちゃん良いよ。次いって」

交渉成立と言って続きを促す静に皐月も頷いて次に進める。

「では、次に生徒会長への命令券を手に入れた生徒は手を挙げて下さい」

「はい」

皐月のすぐ前にいた生徒が手を挙げて、京介の方を見た。

「お前が手にしたのか。で、俺に何して欲しい?」

「我々新聞部は命令ではなく生徒会長である神城に一つ質問をしたい」

紺色のスーツに身を包んだ新聞部部長は命令ではなくそう言った。

京介は特に気にするでもなくお前がそれでいいならいいぜ、と返して部長の質問とやらを待った。

部長は許可を貰い、咳払いを一つすると真剣な表情になった。

「では率直にお聞きします。今回、自身のパートナーに指名した2Sの黒月 圭志を風紀委員長にするのではないか、という噂が生徒間で飛び交っていますがそれは本当ですか?」

部長の問いかけに会場内は静まり返る。

風紀委員長に選ばれる意味を知っているからこそ、誰もが気にしていた噂だった。

「知りたいか?」

そして京介は意味ありげににやりと部長に笑ってみせる。

「え、えぇ。新聞部として全校生徒に伝える義務がありますから」

「そうだな、俺としても今んとこアイツしかいないと考えてる」

「え〜〜〜〜!!」

「きゃ――――!!」

「いゃ〜〜〜!!」

圭志を委員長にする可能性が高いと、自ら噂を認めたような発言に一部の生徒達がきゃーきゃー言い始める。

「…それは黒月 圭志を恋人にするととっても?」

「いいぜ」

フッと笑って言った京介は生徒達の前で、圭志本人の承諾もとらずなかば強引な方法で圭志を風紀委員長にすると同時に恋人にすると宣言してしまった。

「まぁ、その件は正式に決まれば発表する」

「そうですか…、ありがとうございました。学園に帰ったら早速記事にさせて頂きます!!」

最初とはうって変わって興奮した様子で京介に頭を下げた部長は新聞部員のいる輪に戻って行った。

「続いて風紀副委員長と食事券を手に入れた…」

京介は自分の役目を終えると、進行を続ける皐月の声を聞きながら、壁に背を預けてこちらを見ていた明と宗太の元に戻る。

「あんなこと言って私はもう知りませんよ」

「そうだよ神城。いくら黒月でも黙ってないぞ」

じろりと睨みつける宗太と焦る明に京介は鼻で笑う。

「いずれそうなるんだ。今言おうが変わんねぇよ」

「その自信はどっからくるんだ?」

「それより自分の心配をしたらどうだ?お前呼ばれてるぜ」

同じように壁に背を預けた京介は顎で生徒達の方へ早く行けという仕草をした。

「はぁ〜」










発表も終わりパーティーが佳境に入った頃、京介は竜哉に会場の外に呼び出されていた。

「アンタまだいたのか」

「まぁね。それより圭志くんの姿が見えないけど…」

「圭志ならとっくに部屋に戻ってんだろ。話はそれだけか?」

うん、まぁ…といつになく歯切れの悪い竜哉に京介は眉を寄せた。

それを見て竜哉は考える仕草を見せてから口を開いた。

「いや、圭志くんなんだか疲れていたみたいだから心配になって」

だから?と視線で促せば竜哉は一度会場の中へ視線をやって言う。

「はぁ、本当は京介くんに言うつもりはなかったんだけどなぁ。どうしよ…」

「いいから早く言え」

ぎろりと京介は竜哉を睨み付けてせっつく。

「仕方ないか。…実は圭志くんあぁ見えても京介くんより繊細に出来てて、ある種の感情、ストレスでも怒りでもなんでもいいけど、それが許容できる範囲を振り切ると大変な事になるらしいんだ」

竜哉の口から溢れた自分に対する悪口とも言える言葉をスルーして京介はで?と続きを聞いた。

「ん〜、何て言うか悪癖って言うのかな?俺も実際見たことはないけど兄さん、圭志くんの父親から聞いた話じゃその状態に陥ると誰かれ構わず抱くんだって」

そう言われすぐに理解できなかった京介ははぁ?と間抜けな声を出してしまった。

「どうもこの学園に来てからまだ誰ともヤってないみたいだし、暴れてもいない。普段はそれで発散なり解消していたらしいけど何もしてない所をみるとそろそろ暴発するんじゃないかと…」

「おい、アンタ。今誰かれ構わずって言ったよな?」

ようやく理解にいたった京介は圭志を追っていった一夜の存在を思い出した。

「ん、あぁ。でも正確には自分に少しでも好意を抱いている人物かな。さすが圭志くんっていうか、ちょっとは理性が残ってるようで…」

それだけ確認すると後の竜哉の話を右から左に流し、京介はポケットから携帯を取り出して圭志の携帯に電話をかけた。

しかし、コール音がするだけで相手は中々でない。

「ちっ、何してんだ」

京介は一度切ると舌打ちして、再度かけ直す。

―R R R R R R―…Pi!

『……んだよ、うっせーな。何度も掛けてくんじゃねぇ』

二度目でようやく出た相手、圭志は不機嫌も隠さず低い声で唸った。

「お前今どこにいる?」

『あぁ?部屋に決まってんだろ。人がゆっくり寝てりゃ電話なんかしてきやがって、目ぇ覚めちまったじゃねぇか』

「速水はどうした?」

『……何でそんなこと聞く?』

圭志の声質が僅かに硬くなった。


圭志の声音が若干変わったのを敏感に感じとった京介は行き着いた答えに面白くなさそうに顔をしかめた。

「お前速水とヤったな?」

「速水くんってあの問題児?圭志くんもう目ぇつけられたのか…」

京介の横で竜哉がへぇと呟けば京介は黙ってろと鋭い視線で睨みつけた。

『…ヤったぜ?それがどうだってんだ。京介には関係ねぇだろ』

「フン、そうか。まだ自分の立場が分かってねぇようだな。アイツもお前も」

『あぁ?』

「すぐ行くからそのまま部屋で待ってろ。いいな」

ピッと返事も聞かず電話を切った京介は竜哉を置き去りにして部屋へ向かった。

そして、竜哉一人が残された廊下には中々戻ってこない京介を呼びに宗太が出てきた。

「理事長、京介は…」

二人が一緒に廊下に出ていったのを見ていた宗太は竜哉が一人なのを見て首を傾げた。

「あぁ、京介くんは…急用だって」

「急用?」

「そっ、とにかく今の京介くんには近付かない方が懸命だよ」

竜哉はそう言って不思議がる宗太の背を押して会場に戻らせた。



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