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その言葉に京介の時と同じように否定の言葉を返した圭志だが、一夜は不満そうにして余計な事まで口にしてきた。

「え〜、ゲーム中に会ったじゃないっスか。先輩、会長様とラブラブで見せ付けてくれちゃってさ。キスされてた先輩、頬を朱に染めて瞳もとろんっとさせて荒い息遣いに甘い声なんか出しちゃって、俺うっかり反応しそうに…」

「黙れてめぇ!!それ以上言ったら殺すぞ」

ギンッと一夜を睨みつけた圭志は言葉と共に持っていたフォークを一夜に向かって投げつけた。

「うわっ!?先輩、過激〜」

それでもなお、軽口を叩く一夜に圭志の堪忍袋の緒がキレそうになった。

その時、一夜の背後に近付いてくる人物がいた。

「速水 一夜、俺の言葉を理解してねぇみたいだな?」

一夜はくるりと背後を振り返るとべっ、と舌を出して言い返した。

「会長様こそ黒月先輩を放っといて何してたんスか?それに…、先輩はまだ会長様のモンじゃないでしょ?」

京介が来たことで生徒達の視線が全てこちらを向いた。

「それはどうかな。なぁ、圭志?」

「俺に話を振るな」

(ここで否定すればまた河合にうざったい視線を向けられるだろ。何考えてんだコイツ!!)

圭志はフイと二人から顔を背けて隣にいた宗太に自分の皿を押し付けると馬鹿らしくて付き合ってらんねぇ、と口にして部屋に戻ろうと扉に足を向けた。


「黒月君!?」

「あっれ〜、逃げるのか黒月?」

今まで傍観していた静が生徒達の中から圭志を挑発するように言った。

「その手には乗らねぇよ」

しかし、圭志は足を止めぬままそう言って会場から出て行ってしまった。

「ちょっと待って、黒月先輩〜」

その後を追おうと一夜が会場の入り口に向かう。

「速水、次はねぇぜ」

「会長様、それは先輩をモノにしてから言って下さいよ?」

にやりと一夜は京介を肩越しに振り返り、すぐさま踵を返して会場から出て行った。

「いいんですか、行かせて?」

圭志に押し付けられた皿をテーブルに置きながら宗太は言った。

「別に平気だろ。相手は圭志だ、ンな簡単に落ちてりゃ俺だって苦労しねぇ」

「確に。貴方がここまでするのは初めて見ました。普段の貴方ならすぐ抱いて、飽きれば捨てるの繰り返しでしたから」

テーブルの上からグラスを手にとり、一口飲むと京介はこちらに近付いてきた静にちらりと視線をやって言う。

「余計なことすんな」

「それは悪かった。ちょっと黒月がどう反応するか見てみたくて」

生徒達は京介と一夜の一連のやりとりにざわざわと口々にあることないこと囁き合う。

特に中等部から噂の絶えなかった男、一夜まで絡んでくるとその話は大袈裟なまでに誇張されるのだ。

「宗太先輩!!」

「おい、黒月出てったけどどうしたんだ?それにアイツ例の速水じゃ…」

離れたところで状況を見ていた皐月と明が駆け寄ってきた。

「なんでもねぇよ。それよりもう発表に移れ」

京介は明の言葉を無視して宗太にそう告げた。

宗太も騒ぐ生徒達に目を向け、少し早いですがそうしましょうかと京介に同意して発表の準備に取り掛かった。


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