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「……………」

「……………」

京介と圭志は竜哉の言葉に互いに顔を見合わせた。

「二人とも知らなかったのか?」

竜哉は心底不思議そうに言うが、初めて聞いた事実に京介と圭志は驚きで言葉が出なかった。

「………本当に?」

「へぇ、こんなこともあるんだな」

驚きから先に立ち直った京介はにやりと上機嫌になった。

「本当に。俺がそう言ってるワケだし、現に君達は似ている部分があるだろう?」

「じゃぁ、本当に俺と京介はイトコなんだな?」

改めて確認する圭志に竜哉は頷いた。

「でもおかしいな、君達小さい頃に会ってるはずなんだけど…」

三人の会話を一歩後ろで聞いていた静が口を挟む。

「京介と黒月がイトコなのは分かったけど、理事長って名字城戸だろ?」

「それは偽名で本名は黒月なんだ。黒月の名を名乗ると周りがうるさくなるからな」

竜哉はうんざりした表情で言った。

そこで宗太が疑問に思ったことを京介に聞く。

「理事長が叔父なら本名も知ってたんじゃないんですか?」

「はっ、興味ねぇよ」

つまり、京介にとってはどうでもいい事だったので覚えていなかったという事だろう。

「俺も随分嫌われたもんだ」

竜哉は京介の態度に苦笑した。


「アンタが俺の邪魔をしたからだろ。それよりいつまでここにいるんだ?」

「はいはい。俺も忙しいから少しパーティーに顔出したらお暇させてもらうよ」

じゃ、と圭志達に片手を挙げて竜哉は大勢の生徒達で賑わう舞台下へ下りて行った。

「じゃぁ、俺達も行くか。いつまでも此処にいたら夕飯食いっぱぐれちまうからな」

静がそう言って明の肩に腕を回したまま同じように舞台下に下りていく。

「そうですね、行きましょうか。皐月」

「はい」

差し出された宗太の手を取り皐月も歩き出す。

その場に残された圭志と京介は動かず、圭志は京介の腕を腰から剥がすと腕を胸の前で組んで口を開いた。

「竜哉さん、俺とお前が小さい頃に会ったって言ってたな。お前覚えてるか?」

「さぁ?ンなガキの時の事なんて覚えてねぇよ。第一お前に会ってりゃすでにお前は俺のモンになってんだろ」

「勝手に言ってろ」

圭志は組んでいた腕を解くと一人舞台の階段を下り始める。

その後ろ姿をじっと見つめながら京介はふと思い出したようにまさかな、と一人呟いた。










普段近付くことの出来ない生徒会メンバーと風紀副委員長、理事長が一般生徒達の間近に下りてきた事で生徒達はきゃーきゃーと興奮し始め、一般生徒でありながら京介に指名され一緒に注目されている圭志はその煩さに眉間に皺をつくった。

「うるせぇ」

「黒月…」

静から離れ圭志の側に寄ってきた明は、圭志を気遣うように料理の盛られた皿とフォークを渡した。

圭志は皿に盛られた料理にフォークを突き刺すと遠巻きに眺める生徒達を睨みつけた。

それを直に見てしまった数人の生徒がぴしりと固まる。

「あのさ黒月、気持ちは分かるけどこれ一応交流会だから…」

「何生徒を怖がらせてるんですか?」

明が圭志をなだめようとしている所へ皐月を連れた宗太が来た。

「渡良瀬〜、黒月があまりの煩さにキレそうなんだよ」

「注目されるのなんて今更でしょう?」

宗太は苛ついている圭志に顔を向けて言う。

「こんな格好でなけりゃな」

「それこそ今更だろ」

明はため息混じりにそう言って自分の着ているドレスに視線を落とした。

「あぁそうだ、皐月。私はちょっと黒月君に話があるので明とここで待っていて貰えますか?」

頷いた皐月に皿とフォークを渡すと宗太は圭志の腕を掴んで会場の隅に移動する。

「え?渡良瀬?」

何が何だか分からない明は皿を持ったまま二人の背に声を掛けたが、二人はそのまま行ってしまった。

「話って何だ?」

明の隣で皐月も一緒に首を傾げていた。


「で、何だよ?」

フォークで突き刺した料理を口に運びながら圭志は腕から手を放した宗太に言う。

「非常に言いにくいのですが、注目されている理由は私達のせいだけじゃなくソレだと思いますよ」

宗太はそう言って圭志の首筋を指差した。

「ソレ?」

圭志は自分の首筋に手を当てるとはっと軽く目を見開き、京介を見た。

しかし、京介は生徒達を相手にしていてこちらには全く気付いていなかった。

宗太は圭志の視線の先を辿り、誰が何の為に付けたのかに気付いた。

「相手は京介ですか…」

「あのヤロウ」

「まぁ、髪に隠れてぎりぎり見えるか見えないかですから気付いた生徒はそこまで多くはないでしょうけど」

宗太は視線を京介から圭志に戻し、言葉を続けた。

「それで、京介といつヤったんですか?」

「ヤるワケねぇだろ!!」

真面目な表情で聞いてくる宗太に圭志は持っていたフォークを握り締め低く唸った。

「ではなぜそんな所に?」

てっきり食われたのかと思った、と言う宗太に圭志は肩を落とした。

「お前はまともだと思ってたのに。やっぱアイツの周りにいるだけあってまともじゃねぇ」

「失礼ですね、私はただ貴方なら京介の首輪になってくれるんじゃないかと思ったから聞いただけです」


「首輪って何だよ?」

圭志は料理を摘みながらいぶかしげに宗太にそう聞いた。

「そのままの意味です。あっちへフラフラこっちへフラフラ遊び回っている京介を捕まえて繋ぎ止めておくための。幸い貴方が来てから京介の遊びも減り、貴方に本気みたいですから」

「…気のせいじゃねぇの?」

「いいえ。もし貴方に何かあったら京介が責任をとるとまで言いましたし、そろそろ他とは手を切って貰って生徒会の仕事にも専念して貰いたいですし…」

一年生と思われるドレスを着た生徒に口付けている京介を眺めて宗太は言う。

「嫌だね、俺を巻き込むんじゃねぇ」

だが、圭志は宗太の言い分を撥ね付けた。

「そうそう、それに黒月先輩は俺が貰うんスから」

いつの間にか側に来ていた一夜が圭志のドレス姿に口笛を吹いて、上から下まで眺める。

「貴方は…」

「ども、渡良瀬先輩。いやぁ〜黒月先輩似合ってますよ?今すぐお持ち帰りしたいぐらいv」

一夜の登場に圭志は不快そうに顔をしかめた。

「何しに来た」

「もちろん先輩のドレス姿を間近で見るために」

普通に会話を交す二人に宗太は圭志に、知り合いだったんですか?と聞いた。


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