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パーティー会場のホールにはすでに大勢の生徒達が集まっていた。

色取り取りの服装に身を包んだ生徒達がパーティーの開始を今か今かと待っていた。

そして、会場の明かりが一斉に落とされ、前方の扉にのみ照明が当てられる。

ゆっくりと扉が開き、最初に手を繋いだ宗太と皐月が現れた。

「キャ――――!!!」

「渡良瀬様〜〜!!!」

「皐月ちゃん可愛い――!!」

次いで明の肩を抱いて、爽やかな笑みを浮かべた静が入って来る。

「キャ〜〜〜〜〜!!!」

「明様〜、静様〜!!!」

にっこり手を振る静に対し、明は些か肩を落として歩く。

キャーキャーと、騒がしくなった会場に最後の二人が足を踏み入れる。

京介は圭志の腰に腕を回し、圭志は諦めた表情をしながらも己の腰を抱く京介をじろりと睨んだ。

二人の登場に騒がしかった会場に一瞬の静寂が訪れる。

「……嘘、あれが編入生?」

「すっげぇ美人じゃん。俺のタイプ」

「神城に負けず劣らず雰囲気あんなぁ」

それは京介が生徒達に向かい、フッと口端を吊り上げて笑むことで打ち破られた。

「キャ―――――!!!」

「京介様格好良い〜!!」

「黒月先輩も素敵〜〜!!」

圭志達がステージに上がると、消されていた照明が再び灯される。


ステージの端に移動した皐月がマイクを片手に口を開く。

「お待たせいたしました。それでは、パーティーを始めるにあたりまずこの方からご挨拶があります」

皐月は圭志達のいる所ではなく、ステージの反対側に視線を向けた。

そして、そこからダークグレイのスーツに身を包んだ細身の青年がステージの中央まで歩いてくる。

「竜哉さん?」

思わぬ人物の登場に圭志は軽く目を見開いた。

確かに学園の理事長をしているのだからこの場にいてもおかしくはないのだが、こう急に現れると驚いてしまう。

圭志の呟きを耳にした京介はチッと舌打ちをした。

「名前で呼ぶなんて随分アイツと親しそうだな」

京介は何か苛立ったように圭志に言った。

それに圭志はちらりと横に立つ京介に視線をやって首を傾げた。

「何不機嫌になってんだよ?俺の方が舌打ちしたい気分だぜ。竜哉さんにこんな情けない姿見られて…」

圭志は身内である竜哉に女装した姿を見られ、間違っても両親にそんな話をばらされたら堪ったもんじゃねぇと心の中で悪態を吐く。

「お前、アイツとどういう関係だ?」

京介は圭志の腰に回したままの腕に力を込め、真剣な表情で聞く。

「どうって、竜哉さんは俺の…」

圭志が答えようとした瞬間それは会場内の生徒達の叫びにより遮られた。


「キャ――――!!」

「理事長〜〜〜!!」

公の場に滅多に姿を見せない年若い理事長、竜哉の挨拶に生徒達が興奮して騒ぎ始めたのだ。

竜哉もサービスとばかりに笑顔で生徒達に手を振る始末。

「理事長、ご挨拶を」

皐月の横に立つ宗太がこほんと咳払いをして先を促すと、竜哉は苦笑して、持っていたマイクのスイッチを入れた。

「こんばんわ、皆さん。交流会は楽しめていますか?私自身、堅苦しい挨拶は苦手なので簡単にすませたいと思います」

爽やかに微笑む竜哉は、話しの長いだけの校長やら教頭と違い、こういった生徒達に好ましい人柄で近寄りにくくも無く、学園では非常に人気があった。

「私が言いたい事は一つだけです。交流会中、問題を起こすこと無く皆が有意義で楽しい時間を過ごせるよう努めて下さい。それでは、この後のパーティーも楽しんで下さい」

竜哉はマイクのスイッチを切ると、圭志達の居る方へ歩いてくる。

「ありがとうございました。続いて生徒会長から挨拶があります」

京介は圭志の腰から手を放すと、歩いてきた竜哉からマイクを受けとる。

その際、二人は小声で会話を交した様だが圭志達には聞こえなかった。

「久しぶり、圭志くん」

「どうも」

竜哉は圭志の格好を上から下までじっくり眺めると似合ってるな、と嬉しくない事を言ってきた。


竜哉は圭志の横に並ぶと、挨拶をしている京介を眺めながら口を開く。

「それにしてもあれだけ注意したのに生徒会と関わってるんだな」

「好きで関わってるワケじゃねぇ。京介の奴が…」

「やっぱりそうか。大方、圭志くんが京介くんに気に入られたってところか?」

まぁ、と圭志は頷きつつあの京介をくん付けで呼ぶ竜哉に驚いた。

また、二人の後ろで会話を聞いていた静と明も互いに顔を見合わせて驚いていた。

「さて、京介くんの挨拶も終わったみたいだし俺もパーティーに参加しようかな」

驚いている圭志から視線をこちらに戻ってくる京介に移し、竜哉はそう言った。

そして挨拶も終わり、無事パーティーが開始された会場から宗太と皐月も圭志達のいる舞台袖に戻ってくる。

生徒達に向けた笑みを消し去り、戻ってきた京介は不機嫌な顔で竜哉を見やった。

「アンタ圭志とどういう関係だ?」

「その前にお前こそ竜哉さんとどういう関係なんだ?京介くんなんて呼ばれて…」

言い合う二人に、そう聞かれた竜哉は殊更不思議そうな顔をした。

「何言ってんだお前ら?関係も何も…」


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